
岸本知事(右)と中田連合会長
大阪・関西万博の開幕から1カ月。万博を好意的に受け止める来場者の声も増えてきた。今回の万博は観光にどんなレガシーを残せるのか。関西各府県・旅館業界の取り組みや思いをリレー形式で紹介する。6回目は和歌山県。(聞き手は本社関西支局長・小林茉莉)
※岸本周平知事は4月15日に急逝されました。心よりご冥福をお祈りいたします。本対談は、万博開幕前に取材したものを、編集し、掲載しています。
陸・海・空、フル活用で誘客につなげる
――和歌山県の万博に関する取り組み内容とそのコンセプトと狙いを伺いたい。
岸本 万博に絡めて和歌山まで泊まりに来てもらうというのが一番の狙いだ。
万博会場では、関西広域連合で出展している関西パビリオンに、和歌山ブースを設けている。これにはものすごい自信がある。インバウンド客はもちろん、日本人も、はっきり言って和歌山県の展示に関心のある人、期待する人はゼロだと思う。だが期待されていないことほど強いことはない。失敗覚悟で弾ける、勝負するという意気込みで取り組んだ。
今回、和歌山市出身の国際的デザイナーである吉本英樹氏を総合ディレクターに、全てをお任せした。出展テーマは「和歌山百景―霊性の大地―」。高野山や熊野などに育まれた精神世界と和歌山のさまざまな表情、魅力を「上質さ」と共に表現することで、多くの人に和歌山への関心を持ってもらうと共に、県民にも誇りを持ってもらえるようにするのが狙いだ。
紀伊山地の巨木をイメージした高さ4メートルのトーテムを8本立てて、ここに若手の国際的映像作家による、和歌山の過去、現在、未来を表現した映像を流している。
さらに当県のおいしいもの、上質さを表現するためのバーカウンターも作った。アジアナンバーワンパティシエの加藤峰子氏監修の下、県内の老舗和菓子店や料亭による6種類のスイーツ等と、全国的に有名な観音山フルーツパーラーの飲み物を合わせて販売する。スイーツは、県内の各店でも販売する仕掛けだ。
ブース内にも県内の上質なものを使用した。8本のトーテムは海南の紀州塗りの技術で仕上げており、バーカウンターは紀州材を活用している。高野口のパイル織物や紀州高野組子細工も使っている。スタッフのユニフォームは県特産のニットでできている。ありとあらゆる和歌山の素材をそこで見せていく。
会場内では和歌山デーや和歌山ウイークなどがあるので、県民総参加で盛り上げている。ブース内ステージでのパフォーマンスにも、多くの人が参加している。オープニングは紀州東照宮の「和歌祭」から始まったが、その後もほぼ週替わりでテーマを設けて、「”上質”のつまった和歌山」をコンセプトに、多様なパフォーマンスや工芸作品の展示、県内各地の歴史や技術、魅力を紹介する企画を展開している。音や匂いなど五感で和歌山の上質さを感じてほしい。
岸本知事
中田 まだ私は現地で見ることができていないのだが、このデザイナーは「やばい」。絶対に面白い、素晴らしいものになっていると思うので楽しみだ。
――万博に合わせて和歌山に宿泊してもらうための取り組みは。
岸本 インバウンドについては香港など海外の旅行会社にセールスに行き、万博に来た足で和歌山に来てもらうための商品を売ってもらっている。最近、熊野白浜リゾート空港を利用した大韓航空のチャーター便が大人気なのだが、食に次いで宿泊施設などのサービスの評価が非常に高い。これは観光関係者の皆さんの全県挙げた取り組みの賜物だと思う。こういったもてなしの質の高さも武器になるはずだ。
国内向けには、JR西日本と組んで、万博経由で和歌山に来てもらう「万博プラスワントリップ」キャンペーンも展開中だ。
――万博に向けた旅館ホテルの動きはどうか。
中田 万博プラスワンのキーワードで昨年の初めから動き出した。最初はいまいちだったのだが、やっとこの年明けから反応が良くなってきた。宿泊も6、7月から動くとみて、各旅行会社やJRなどと取り組んでいる。過去、愛・地球博やドバイの万博も、後半に入場者がどっと増えたので、後半に向けた盛り上がりに期待している。
和歌山市内などは交通の便も良いので、大阪であふれた宿泊需要の受け皿となりうる。白浜や勝浦、高野山については交通の便が課題だが、モデルコースや所要時間を具体的に示しながらセールスを行っている。帰路に熊野白浜リゾート空港を利用する、万博プラスワンのツアーなども提案した。熊野白浜リゾート空港は知事も非常に力を入れておられるので、われわれも期待している。和歌山は縦に長いので、交通施策は観光誘客と切り離せない。陸、海、空あらゆるルートを考えていく必要がある。
「アフター万博」では、和歌山市だけ、高野山だけ、白浜だけではなく周遊するプランだったり、インバウンド客向けの連泊や長期滞在のプランだったりを拡充する動きも出ている。
中田連合会長
空飛ぶクルマの活用や寛容な精神広める機会に
――今回の万博を契機に和歌山の観光にどんなレガシーを残したいか。
岸本 一番は、万博の目玉でもある空飛ぶクルマだ。空飛ぶクルマを使って富裕層がどんどん和歌浦や白浜、串本に行くようになる。これを万博のレガシーとしたい。県内で商用運航を実現するために、離発着の場所を探しているところだ。
海路を使った観光もチャンスだと考えている。大阪への旅客船などを運航している韓国の会社にアプローチしており、興味を持ってもらっている。アフター万博になるが、旅客船で香川・直島などから和歌山下津港まで行き、バスで白浜へ向かって温泉やゴルフを楽しむツアーを実現する予定だ。韓国の方は日本通で、誰も行かないところに行きたがる。そういう観点でも和歌山は関心が高いようだ。万博で当県に向いた興味を生かしたい。
中田 白浜から万博会場まで船を運航したかったのだが、残念ながら会期に間に合わなかった。だが四国や神戸への海上ルートが引けないか、今動いている。
岸本 旅客船就航には大きい港が要る。今、旅客船が着ける港は、和歌山下津、日高、新宮。白浜あたりに豪華客船が着ける港や富裕層のレジャーボート用の基地などを作るのも今後に向けいいかもしれない。
今回の万博は「いのち輝く」がテーマになっている。少子高齢化社会であっても、みんながウェルビーイングでハッピーな暮らしができるところは、お客さまも気持ちがいい。そういったところに和歌山をどうやってしていくのかを考える契機でもある。
当県は熊野古道や高野山があり、神仏習合のメッカだ。また熊野は、聖地としては珍しく1300年も前から女性も受け入れてきたジェンダー平等の発祥の地でもある。そのような寛容な文化を感じていただけるからこそ、インバウンド客が増えているのではないか。寛容の精神は、今後当県が世界に提供できる、社会的課題解決の一つと思っている。
中田 和歌山の寛容な精神はもっと知ってもらいたいところだ。食を含めた魅力の整備とその発信はわれわれがしっかりプロデュースしていく必要がある。ARやVRなどのデジタル技術の活用も考えている。例えば景観がいいところとデジタルアートなどを組み合わせた新しい視点での魅力づくりなどだ。
最近は観光地やホテルの使い方、選び方が変わってきた。今は十人十色ではなくて「一人十色」。1人がいろんなタイプの旅行をしたり経験をしたりするようになってきたので、それに合ったプランニングや環境を提供できているのかも考えなければならない。多くの魅力を、それが響く人にきちんと提供できるようにして、今の1・5倍くらいの観光客に来てもらえるようにしたい。
岸本 当県は高野山、熊野をはじめ多様な魅力があり、それぞれの宿泊施設が工夫している。いろんなニーズや嗜好(しこう)に合わせられる、さまざまな受け皿があるというのは強い。
――万博を契機とした、県、旅館業界の連携に向けた意気込みを。
岸本 半年間どれだけ宣伝してお客さまにリーチするかが大事だ。リーチして和歌山に来ていただいたら、そこからは旅館の皆さんの出番。そこでいい体験をして、リピーターになっていただきたい。そのためには、食べ物やサービスに加えて、県としてもキャンペーンやインセンティブなど工夫しながら、二人三脚でやっていければいい。
中田 和歌山県内には果物はもちろん、肉も魚も上質なもの、日本一のものがたくさんある。以前「訪れたい都道府県ランキング」で、沖縄や北海道を抜いて1位になったこともあり、ポテンシャルは十分にある。
万博は世界中、日本中から人が集まるチャンスだ。まずは和歌山に万博プラスワンで寄っていただけるよう営業活動をして、県と一緒に誘客、集客に努める。他県に比べ弱いZ世代に向けても、ガンガン発信していく。そしてアフター万博につなげられるようにしたい。
和やかな雰囲気の中、さまざまな意見を交わした両者