「グローバルホスピタリティ&ツーリズムリサーチサミット」、九州産業大学で日本初開催


3、 パネルディスカッション:登壇者(左から)波潟氏、進藤氏、島津氏、濱崎氏、佐藤氏

観光のイノベーション、福岡から世界へ ―

九州産業大学が国際学会共催

観光におけるイノベーション、競争力、持続可能性をテーマにした国際学会「グローバル ホスピタリティ&ツーリズム リサーチ サミット(共同委員長  九州産業大学 千 相哲 副学長)が、5月15日から18日までの日程で、福岡市の九州産業大学にて日本で初めて開催となった。

 本サミットは、米国のセントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリティ マネジメント カレッジが主催する研究サミットの姉妹イベントとして、今回、2024年に国連世界観光機構(UN Tourism)の観光教育国際認証「TedQual認証」を取得した九州産業大学との共催が実現。観光の未来に関する国際的な学術交流の場を提供し、初日から活発な議論が交わされた。

 

 本稿では、多くの研究者や観光実務家、学生が集まり、多様な視点から議論が展開されたサミット2日目、5月16日の模様をレポートする。

 

オープニングセレモニーで福岡の魅力に触れる

 16日、午前中に行われたオープニングセレモニーでは、まず主催者を代表してセントラルフロリダ大学のYoucheng Wang(ヨウチェン ワン)教授が挨拶。サミットの意義と参加者への感謝と期待を述べた。続いて、来賓として福岡県副知事の江口勝氏が登壇。「福岡県も戦略として観光に取り組んでいる」と述べ、夜に開催されるカンファレンスディナーでは「食の王国福岡の食材を使った料理を世界各国からご参加の皆様に堪能いただきたい」と、参加者を歓迎した。

来賓挨拶:福岡県副知事 江口勝 氏

 

TedQual認証と観光教育の質向上

 午前中の基調講演では、TedQual認証と観光教育について、TedQual 諮問委員会メンバーでもあるAntonio Carles(アントニオ カルロス)氏が登壇した。Carles氏は、世界各国の大学における観光教育のプログラム、カリキュラム、履修年数、さらには教育レベルにばらつきがある現状を指摘。オンラインと対面式のハイブリッド授業の導入が進む中でも、教育の質を維持・向上させるためには、各大学が活動情報を共有し、PDCAサイクルを回しながら継続的に改善していくことの重要性を訴えた。

基調講演:TedQual 諮問委員会メンバーAntonio Carles氏

 

パネルディスカッション:観光新時代の革新と創造

 続いて行われた午後のパネルディスカッションでは、「観光の新時代:革新と創造が描く未来」と題し、日本の観光の現状と未来像について、多様な視点から議論が交わされた。西武文理大学の波潟郁代教授がモデレーターを務め、九州運輸局観光部長の進藤昭洋氏、豊岡観光イノベーション事業本部長の島津太一氏、九州観光機構副本部長の濱崎隆氏、グランドハイアット福岡総支配人の佐藤丈氏が登壇した。

 波潟氏は、2023年の三大都市圏と地方における観光客回復状況の差(三大都市増、地方減)に触れつつも、2024年には地方もコロナ禍前(2019年)を上回る回復を見せ、インバウンド市場が地方でも盛り上がっている現状を提示した。

 九州運輸局の進藤氏は、東京都心での自動運転タクシー(waymo)走行開始や、JR九州とスカイドライブによる2028年を目指した別府-由布院間のエアタクシー構想(所要時間15分)といった、テクノロジーを活用した移動手段の革新を紹介。「行きにくい場所にこそ、価値が出てくる可能性が高い」とし、インバウンド獲得が国富増加に不可欠である点を強調した。また、富裕層旅行のニーズ獲得を課題として挙げ、従来のクラシックラグジュアリーから体験価値を重視するモダンラグジュアリー層(ほぼ全ての人にあてはまる可能性が高い)へのプロモーション強化、そして地域住民に幸せを与える仕組みづくりを並行して行う必要性を述べた。

 豊岡観光イノベーションの島津氏は、人口約7万8千人の豊岡市が掲げる「小さな世界都市」のビジョンを紹介。コウノトリと城崎温泉で知られる同市の城崎温泉エリアでは、「町全体が一つの旅館」という共存共栄のまちづくりを進め、夜遅くまで店舗営業をすることで街歩きを推進している事例を説明した。インバウンド獲得戦略の強化として、地域OTA戦略や、収益を地域に再投資するエコシステムの構築に取り組んでいること、さらに旅館データを地域で集約・共有し、データドリブンな「地域で稼ぐ仕組み」を構築していることを報告。先日発生した城崎温泉での火災事故の際に、クラウド上の宿泊者データが、火災で焼失した海外宿泊者のパスポート再発行に役立った例を挙げ、データ活用の新たな側面を示唆した。

 九州観光機構の濱崎氏は、九州の宿泊客の約4割、インバウンドの6割以上が福岡に集中している現状を課題とし、福岡をハブとした九州各県への周遊促進に取り組んでいることを紹介。生成AIを活用した旅のレコメンドアプリを開発し、実証実験で福岡県からの他県への旅行動員に寄与した実績を挙げた。アジア圏インバウンドに強い一方で、欧米豪インバウンドが弱い点を克服するため、米国東海岸の会社とレップ契約を結び、ニューヨークタイムズやウォールストリートジャーナルといった大手メディアへの露出を成功させていること、また九州主要空港への欧米豪直行便がないため、現在豪州から東アジアを経由した誘客に取り組んでいる現状を説明した。

 グランドハイアット福岡の佐藤氏は、外資系ホテルの国内参入が増加している市場において、宿泊客の6割がインバウンドであり、そのうち9割がアジア層である現状に触れ、欧米豪からの誘客が課題であることを述べた。

 海外にアピールするキーコンテンツについてのセッションでは、進藤氏が「九州はポテンシャルの宝庫。すべてに可能性がある、できることは全てやる気持ちが大事」と述べ、濱崎氏は「九州は1つの島としての魅力、特に地域の食の魅力を訴求していく」と語った。

パネルディスカッション:登壇者(左から)波潟氏、進藤氏、島津氏、濱崎氏、佐藤氏

 

都市開発と観光振興:森ビルの挑戦

 午後のもう一つの基調講演では、株式会社森ビルホスピタリティコーポレーション代表取締役社長の森浩生氏が、「グローバル都市東京への進化:森ビルの都市開発と観光振興の革新」と題し、都市開発の視点から観光の未来を語った。

 森氏は、21世紀は都市の時代であり、2050年には世界人口の7割が都市に集中する予測がある中で、少子高齢化が進む日本においても東京が依然として人口増加傾向にある現状を指摘。森ビルの街づくりの理念である「ヴァーティカルガーデンシティ」(超高層ビルの建設により土地にオープンスペースを生み出し、緑化を推進する)を紹介し、再開発による環境負荷低減や緑地拡大といった効果を説明した。

 インバウンドについては、2024年の訪日外国人旅行消費額が8兆円を超え、東京のホテル市場も過去最高の実績を記録しているものの、ロンドン、パリ、ニューヨークといった世界の主要都市と比較するとADR(平均客室単価)はまだ低い水準にあることを指摘。また、ホテルの客室数自体は世界の都市で1位だが、ラグジュアリーホテルに限ると世界で12位と少ない実態を明らかにした。さらに、賃金が上がらない、建築コストの高騰(コロナ前の約2.5倍)、人手不足といった複合的な課題が開発自体の頓挫につながっている現状を述べ、競争が激しい業界で生き残るためには「クオリティ&ブランド」の二つが重要であると締めくくった。

 サミット初日は、国内外の専門家による多角的な視点からの発表や議論を通じて、観光産業が直面する課題と未来に向けた可能性が活発に討議され、参加者は熱心に耳を傾けていた。サミットは18日まで続き、最先端の研究成果や実践事例が共有された。

基調講演:森ビルホスピタリティコーポレーション 森氏

 

【九州支局長・後田大輔】

 
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