【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 751】中小旅館・ホテルの滞在価値の磨き方(2) 青木康弘


 中小旅館・ホテルの多くは、「料理の質こそが顧客満足度の決め手」と捉え、食材に惜しみなく費用をかける傾向がある。しかしながら、高額な食材を使うことが、必ずしも満足度の向上に直結するとは限らない。むしろ、料理のコストを適正に抑え、浮いた分を滞在中の体験や施設の充実に振り向けた方が、宿泊全体の印象を高められる場合も多い。

 たとえば、1泊2食付きで4万円の宿泊プランにおいて、料飲原価が1万2千円であれば、原価率は30%に達する。この水準では、人件費や光熱費などの諸経費を差し引くと、将来的な設備投資に充てるべき利益がほとんど残らず、経営を圧迫する要因となる。実際には、料飲原価を9千円以下に抑えるのが現実的な水準とされており、差額の3千円を「記憶に残る体験づくり」に再配分することが有効である。

 たとえば、そのうち千円を館内の飲料サービスに充てることで、客室の冷蔵庫や湯上がり処に無料のドリンクやデザートを用意したり、夜食サービスを取り入れたりすることができる。

 さらに千円を地域ならではのアクティビティに活用すれば、宿の魅力を一層高めることができる。長野県のある宿では、スタッフが夜間に星空観察ツアーを実施しており、天体望遠鏡を通じて満天の星を楽しむ体験が好評を博している。また、香川県のある宿では、海蛍の観察を含む夜の散策ツアーが企画され、特に家族連れから高い評価を得ている。

 残る千円は、客室の快適性向上のための費用として活用したい。たとえば、客室へのプロジェクターの導入や、水族館など地域の観光施設や地元アーティストとのコラボによる客室の装飾、照明デザインの刷新といった取り組みにより、宿の滞在価値を大きく高めることができる。

 現在の経費の使い方が、本当にお客さまの体験価値を高めているのか。こうした視点から定期的に見直す姿勢は、限られた予算で運営する中小旅館・ホテルにとって欠かせない。料理がどれほど豪華であっても、滞在中の時間が単調であれば、記憶に残る宿とはなりにくい。リソースの配分をどう工夫するか。そこにこそ、これからの宿の競争力がかかっている。

(アルファコンサルティング代表取締役)


(観光経済新聞2025年4月28日号掲載コラム)

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒