
「Anime NYC」会場の様子
日本各地の方々に米国市場についての印象を聞くと、初訪日がほとんどでゴールデンルートを中心とした旅行が定番という受け止めが多い。果たして地方誘客にとって困難な市場なのであろうか? 仮に年間約270万人の訪日米国人のうち6割が初訪日だとしても、100万人以上のリピーターがいることになる。これは東南アジア1カ国の訪日市場を丸々飲み込むような訪日リピーター市場があるということである。実際に旅行者の声を聞いてみると米国人の興味関心はゴールデンルートにとどまらない。中でも特に若い世代での関心が多様であると感じる。
昨年8月にマンハッタンで「Anime NYC」が開催された。マンガやアニメ、ゲーム等日本のポップカルチャーが集結するイベントで、全米から男女問わず多くのコスプレ姿の参加者でにぎわった。来場者はいわゆるZ世代、ミレニアルズを中心とした若い世代である。彼らはサブスクで日本のアニメを見て育ち、日本の文化や日本語に興味を持ち、いつかは日本に行ってみたいと思っている。今後の訪日旅行のコアを担う世代である。
会場で若い世代の声を聞いてみると、それぞれの旅行目的の明確さ、多様さに驚かされる。瀬戸内でサイクリングをしたいという女性、初訪日で北海道にスキーに行くという男性、沖縄の空手に関心があるという女性等、自分の興味のあるアクティビティに引っ張られて日本各地への訪問を検討している様子が伝わってくる。
デジタルネイティブのZ世代は、YouTube等の動画やSNSを見て旅行先を検討しているのが特徴的である。米国ではTikTokの利用制限の行方が不透明な状況だが、特にZ世代においてTikTokは浸透しており、米国で1・7億人の利用者がいるといわれている。このため必ずしも旅行会社やガイドブックでの「定番」に縛られない自由さがある。アクティブな若い世代に対しては、こうしたSNS等を活用して、アドベンチャートラベル等のコンテンツでの地方誘客は効果的である。
また、若い世代をターゲットにする際に忘れてはならないのがサステナビリティの視点である。アメリカのZ世代は多様性を尊重し、社会正義への意識が強い。SNSを駆使し、ブラックライブズマター運動、LGBTQ、女性の権利等の社会運動を引っ張ってきた世代である。こうした新しいトレンドに敏感であり、次の時代を生きていくZ世代にとって、旅行におけるサステナビリティの意識は高い。
サステナビリティは環境保護の視点だけではない。地域の人々の生活、経済も含めて地域の持続可能性を重視している。したがって、彼らは地元との交流を求め、地元の食を楽しみ、地元のために消費する。日本各地に伝わる文化や地域の祭りはサステナビリティの教材の宝庫である。どのような暮らしが地域をサステナブルにしているのかを学びながら旅行を楽しんでいる。
消費額向上の観点から米国市場に関心を持っていただく地域も多いが、アクティビティや文化資源に恵まれた地方の観光地と若い世代の米国人旅行者とは相性が良いのではないかと感じる。
「Anime NYC」会場の様子
(観光経済新聞2025年4月28日号掲載コラム)