
トルコ共和国大使館文化観光局は4月30日、世界遺産「アヤソフィア・グランド・モスク」の象徴である巨大ドームの大規模修復プロジェクトを開始したと発表した。約1,500年の歴史を持つこの文化遺産を次世代に残すための取り組み。耐震補強とモザイク保存を中心に、3年間にわたる作業が進められる。
歴史と芸術を守る最新技術
アヤソフィアでは、トルコ政府が進める文化遺産保全プロジェクトの一環として、これまでにない規模の修復作業が行われている。今回の中心となるのは、建物のシンボルである「巨大ドーム」だ。作業では、大地震にも耐えられる強度確保と、内部の歴史的モザイク画保存の両立が目指されている。
修復はまず、ドーム外側の鉛カバーを取り外し、状態に応じて修理または交換するところから始まる。作業期間中はドーム全体を鋼鉄製の仮設構造と高品質保護シートで覆い、風雨や温度変化から保護する。内部のモザイク画保存のため、高さ43.5メートルの足場も設置される予定だ。この足場は4本の柱で支えられ、礼拝などの宗教的機能を妨げない設計となっている。
作業の安全性と効率性を高めるため、東側には高さ41メートル、アームの長さ60メートルの専用クレーンも設置される。このクレーンはアヤソフィアの構造に合わせて特別設計され、建物との適切な距離を保ちながら安全に操作できるという。大ドームやモザイク、ミナレット(尖塔)の修復完了後は、仮設構造物や足場、クレーンも順次撤去される計画だ。
このプロジェクトはすでに複数の段階に分けて進行中で、スルタン・メフメト3世、セリム2世、ムラット3世の霊廟や、かつての初等学校「スィビヤン・メクテビ」、時計部屋「ムヴァッキターネ」などの修復はすでに完了している。また、これまで一般公開されていなかったギャラリーフロアも整備され、現在は見学可能となった。敷地内のすべての建造物は3Dスキャンで詳細に記録され、デジタル上にバーチャルモデルが作成されている。
千年以上の歴史をつなぐ建築の傑作
アヤソフィアは1985年、ユネスコの「イスタンブル歴史地区」として世界遺産に登録された歴史的建造物だ。約1,500年前にキリスト教の大聖堂「聖ソフィア大聖堂」として建設され、当時のキリスト教世界で最も重要な教会の一つとされていた。その後、オスマン帝国のスルタン・メフメト2世によってモスクへと転用され、内部の金色モザイクやフレスコ画の上には精緻なイスラム文様が施された。時代とともに4本のミナレットも追加され、現在の姿に近づいていった。
特に注目されるのが、スルタン・セリム2世時代に建てられた西側の2本のミナレットだ。これらはオスマン建築の巨匠・ミーマル・スィナンによって設計・建設された。セリム2世はミナレット建設と共に、当時すでに劣化が見られたアヤソフィア全体の修復もスィナンに命じた。スィナンはミナレット施工と並行して建物に耐震補強を施し、外壁に控え壁(バットレス)を加えるなど、建物寿命を延ばす重要な工事を実施。その成果により、アヤソフィアは数世紀にわたる大地震にも耐えることができたという。
トルコは2023年に建国100周年、2024年には日本との外交関係樹立100周年を迎えた。2024年には全世界から過去最高の6,226万人の観光客が訪れており、今回の修復プロジェクトは、アヤソフィアの歴史的価値を未来へと継承する重要な取り組みとなっている。アヤソフィアの修復に関する詳細は、トルコ観光公式ウェブサイト(https://goturkiye.jp/)または各種SNSで確認できる。