【VOICE】「おもてなし」のその先を求めて 立命館大学ビジネススクール 研究科長・教授 牧田正裕氏


立命館大学ビジネススクール 研究科長・教授 牧田正裕氏

業界は価値提案で勝負を

 九州に住む友人にたずねたところ、「推し活」のために東京でのツアーに「遠征」した際にかかった金額は、チケット代、グッズ、交通・宿泊費、現地での飲食などを含めて約8万円だったという。「King Gnu5大ドームツアー2024」では、5都市9公演で約38万人が大合唱を繰り広げた。

 昨年12月の「JALホノルルマラソン」を走った都内の友人によれば、参加費や旅費などを合わせた総額は約40万円にのぼったという。レースの参加者3万6千人のうち、日本人は1万人を占めた。

 どちらの商品も「参加型」である点が、近年の消費の傾向を反映していて興味深い。「日本人は貧しくなった」と言われる一方で、「エクスペリエンス(経験)」として価値があると判断すれば、高額でも支出を惜しまないということなのだろう。

 ここで、世界に誇る日本の「おもてなし」が、本当に価値を生んでいるのか?という問いを投げかけたい。

 コロナ前の2018年、宿泊・飲食サービス産業の就業者1人当たりの労働生産性は317万9千円であり、これは製造業の3分の1程度に過ぎない。就業1時間当たりで見ると、宿泊・飲食サービス業は2657円で、製造業の約半分である。

 労働生産性の計算において、分子となる付加価値には人件費も含まれる。「おもてなし」に価値があると主張するのであれば、その価値を価格に反映させ、従業員の待遇を改善すべきではないか。

 もはや、この業界が「おもてなし」だけで競争に打ち勝つのは難しい。筆者自身もそうだが、「放っておいてほしい」と思っている消費者も、少なくないはずだ。価値提案で勝負すべきであろう。ビジネスモデルそのものが、いま問い直されている。

 そもそも、「ホスピタリティ」をサービスより価値ある行為と見なした上で、「おもてなし」と同義視してきたわれわれの業界も、大いに反省すべきである。

 「ホスピタリティマネジメント」の授業でこうした話をしていたところ、現役CAとしてオンライン受講している院生は、近年カスタマーハラスメントが増えているのは、「おもてなし」の良さが過度に強調されていることと関係があるのでは、と指摘してくれた。

 この4月で、立命館大学ビジネススクール観光マネジメント専攻は開設1周年。今年もまた、「おもてなし」のその先にあるものは何かを、院生たちと共に探究していきたい。


立命館大学ビジネススクール 研究科長・教授 牧田正裕氏

 
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