【旅館経営ワンポイント講座 53】企業再生、さまざまな人生模様を見る 渡辺清一朗


 昭和101年が明けた。この1年もいろんなことがあった。本業の経営改善・再生でも忘れられないことばかりだった。

 温泉旅館を女将として取り仕切っていた女性。売り上げの低迷と過剰債務に苦しんでいた。どうあがいても再生は困難と廃業を決断する。法律の専門家のアドバイスをもらいながら、自身の自己破産手続きも行った。ちょうどそんな折「うちの旅館の弱みは中心となる女性がいないことなんだけど、誰かいい人いないでしょうか?」という話が舞い込んだ。全く違う地域の旅館であったが、かえってしがらみがないほうがいい、という判断で雇われ女将を引き受けることとなった。今では地域の女将の間でも中心的な役割を担うまでになっており、すこぶる健康そうな明るい笑顔が返ってくる。私もうれしい限りだ。

 温泉旅館の若社長。営業体制の強化を図り何とか債務の利益償還を図ろうと、企業再生の専門家にも相談しながら業績の回復に真面目に取り組んでいた。しかし、施設の老朽化や競合他社のリニューアルなどもあり業績の回復は思うようにならなかった。最終手段として民事再生による事業の再構築を図ったが、再生計画は認められたものの結果としては再生を断念、破産を余儀なくされた。旅館事業は継続することができなかったが、専門家集団とともに自ら必死に再生に取り組んだ経験が生きた。現在は企業再生業務を専門家の下で勉強しながら企業再生のプロを目指す毎日だ。

 先日相談に訪れた30代の青年。「このまま交渉に参加するか、家業を離れて別の仕事に就くか、結論を出せずにいます。どうしたらいいでしょうか?」。旅館を営む家業が危機的状況に瀕しており心底悩んでいた。親が経営する旅館(A社)が親の兄弟が経営するレストラン(B社)の金融債務の連帯保証をしていた。その上、親も連帯保証人となっているという。かろうじて取締役である本人は保証人ではない。B社の金融債務の償還がかなりの期間滞ったため、期限の利益喪失となり、A社にも債務償還の通知が届いているがそこまでの余裕はない。スポンサー候補は数社あるようで何とか再生したいとのことであった。

 旅館の損益状況から考えても再生は容易ではなく、いずれにしてもいばらの道からは逃れられない状況で冒頭の言葉が飛び出してきた。この案件、現在進行形ではある。

 現状に踏みとどまり歯を食いしばって乗り切ることも選択肢の一つだ。しかし、再生は相手のあることで、次の人生に踏み出すという決断もあり得る。これまで、実際にさまざまな人たちの人生模様を見せてもらってきた。

 かくいう私自身も携わった主な職業だけでも、銀行員、旅館ホテル経営、設計会社の営業、企業再生人、などその時々でいろいろな方々のお世話になりながら現在がある。選択肢がいくつかあっても一度に選択できる道は限られているし、身は一つしかない。逃げずに勇気をもって前に進むしかない。必ず一筋の光が見えてくるはずだ。

 (EHS研究所会長)

 
 
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