【体験型観光が日本を変える402】パンダに頼らぬ町づくりを 藤澤安良


 局所で豪雨があったかと思えば、猛暑の晴れの日が来るなど、梅雨らしくない日が続いている。各地で次々と梅雨明けした。今年の梅雨は短く、観光シーズン的には夏が1カ月増えるようなものであり、観光集客増加につなげたいものである。

 1995年、中国からジャイアントパンダが和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドにやって来てから31年、中国とのレンタル契約終了に伴い中国に返還される6月28日に白浜町に行くことになった。

 前日は最後の観覧日とあって多くのパンダファンがその姿をしっかり目に焼き付けておこうと当地を訪れにぎわった。ニュース映像からは泣きながら別れを惜しむ人の姿が見えるなどパンダ観光の大きさを象徴している。

 1995年は当社が起業し発足した年であり、パンダの歴史と重なる。訪れた日は土日で全車指定の特急券が取れるか心配していたが、空席が目立った。パンダが見られなくなったこととの関係は定かではないが、少なくとも影響はあると見た。

 地域の観光のキラーコンテンツの一つがなくなったが、和歌山県は世界遺産「熊野古道」や山、川(清流でのカヌーやいかだ下り)、田畑(米、梅、みかん、桃、ぶどう、ゆず)、海(アウトドアアクティビティ、漁業)など豊かな自然と、その農林水産業の食料生産現場での暮らしの中に飛び込んでの体験プログラムや農林漁家を中心に展開している教育民泊など、いずれもとても広くて深い学びが得られるキラーコンテンツぞろいである。

 和歌山県は25年前から400以上の体験プログラムを造成し、「和歌山ほんまもん体験」と称して全国に先駆けて体験型観光に取り組んだ経緯がある。それから、4半世紀がたつが、体験学習が定番となっている修学旅行や校外学習、風景観光のみならず体験交流を求めるインバウンドの増加、いずれも体験型観光振興にかかっている。

 しかし、和歌山県のみならず、全国の多くの旅館・ホテルなどの宿泊施設は教育旅行の体験コンテンツと結びついていないし、連携しようとする旅館・ホテルは極めて少ない。

 旅は宿泊施設だけでは成り立たず、「旅の目的提案」が不可欠であるが、その分野は、行政や地域のコンテンツ企業任せである。個別の宿泊施設の能動的な連携のための行動を求めたい。

 さらに、観光協会や旅館組合など日本には多くの観光関係組織があるが、数十年にわたって前年踏襲型では無駄遣いである。旅行業界にもいえるが、成長戦略や時のニーズに合った新しい分野へのチャレンジが求められている。

 観光関係者があまりにも傍観者や他人事になりすぎている。添乗員や企画や営業を担当する旅行会社社員も実際に体験してみないと感想も見識も感動も得られない。営業も販売もできない。

 こんな当たり前のことができておらず、体験もしていない人が分かったような口を利き、質の悪い評論家のようになっている。そんなことで、観光関連組織が持続可能な発展をするはずはない。動くところに観光の成功がやって来る。

 
 
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