
地中熱が省エネルギーやカーボンニュートラルに寄与することは広く知られている。このような地球環境保全の観点とは別に、都市の温暖化、いわゆるヒートアイランド現象がゲリラ豪雨を引き起こす要因であると、京都大学防災研究所の山口弘誠准教授が唱えている。
都市のヒートアイランドの大きな影響を与える背景の一つに、アスファルトで舗装された路面や鉄筋コンクリート造の建物が太陽からの熱をため込み、大気を暖めることが挙げられる。高層ビルの密集で風通しが悪くなり、暖まった大気が逃げにくくなったりすることも都市の温暖化を助長する。
この他、人間の活動で生じた熱が都市の気温を押し上げることがある。熱汚染とも呼ばれる。自動車の排熱の他、オフィスで使用する照明やエレベータ、パソコンやプリンタなどの電化製品が排出する熱が影響する。熱汚染に大きく起因するものに、冷房排熱が挙げられている。
エアコンの屋外機などから出る冷房排熱が都市の温暖化を招く。冷房排熱により外気温度が上昇して、建物内の室温が暑くなり、さらにエアコンの稼働が大きくなって、冷房排熱が増える悪循環は、以前から指摘され続けてきた。
京都大学の山口弘誠さんによれば、冷房排熱等による都市排熱の増加で積乱雲が成長する。これがゲリラ豪雨のタネになるという。2024年8月22日に放送されたテレビ朝日の報道ステーションで、都市に大きな送風機のようなものを設けて、豪雨のタネを人工的に抑制することで積乱雲の発達を抑えることができると解説していた。高層ビルによるビル風が問題視されていることを考えると、難しいのだろうと捉えている。
国立研究開発法人産業技術総合研究所の高根雄也さんの推計では、地球温暖化で日本付近の気温が現在より3度上昇すると仮定した場合、8月の大阪市ではエアコンの熱汚染で追加的な気温上昇が最大0・6度に達する可能性があるとしている。この影響は、未明の時間帯に大きくなり、朝方近くになっても、都市の気温が下がりづらくなる現象をもたらす。
地中熱利用ヒートポンプの冷房排熱は、図の通り地中に放熱することから大気に放出しない。つまり、ヒートアイランド現象を誘引しない。環境省発行の『地中熱利用にあたってのガイドライン(第4版)』では、都内のオフィスビル街区の空調システムを地中熱利用ヒートポンプに置きかえた場合、最高気温で1・2度程度、住宅街では0・3度程度の気温低減効果が期待できるとしている。
環境省のクールシティ推進事業とETV事業(環境技術実証事業)での人工排熱削減量(単位面積当たり)の例で、次の実績を得た。夏季に冷房利用しているクールシティ推進事業の事例では、冷暖房の床面積1平方メートル当たり、おおよそ0・1~0・2GJ(原油換算で約3~5リットル、電力換算で約28~56キロワットアワー)程度の人工排熱を削減できる。
敷地の狭い都会で、地中熱交換器を埋設するのは容易ではない。日本では地中熱交換器の埋設深さは100メートル前後が多い。地中熱利用が普及している欧州では、200メートルとか、300メートルの深さまで深く埋設する方向に向かっている。建物の建設前に、計画的に建物下部に地中熱交換器を埋設することで地中熱システムが導入可能である。
(国際観光施設協会エコ・小委員会委員、東北文化学園大学客員教授、元・福島大学特任教授 赤井仁志)
(観光経済新聞2025年4月28日号掲載コラム)