
図 地中熱利用無散水システム・BHES(Borehole Heat Exchange System)〔ミサワ環境技術ホームページから〕
この冬の降雪は多く、苦労された読者も多いことだろう。地球温暖化により海水温が上昇しており、海面からの水蒸気量が増えることから今後も降雪・積雪量が増えると予想する専門家が多い。
ところで、わが国の法律が指定している積雪地や豪雪地の面積の比率をご存じだろうか? 雪寒法(積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法)で、国土面積の62%を積雪寒冷地域に指定している。豪雪地帯対策特別措置法だと、国土面積の約半分を豪雪地帯としている。
地域や季節などにより雪質や降雪量が変化することから融雪技術は難しい面がある。
それより融雪効果に対するイメージが、住んでいる場所や立場、経験などにより異なり、話がかみ合わないことも多い。雪が多少残っていても路面が凍結しなければ良いとか、降雪から数時間後には路面に雪が残らないようにしたいとか、融雪の効果に期待するものはまちまちだ。
かつて、地下水をくみ上げて散水して消雪する方法を採る事例が多かった。しかし、地盤沈下による地下水のくみ上げ規制が強化されたことからかなり減った。減少した原因は地下水くみ上げ規制だけでない。散水消雪は、道路の端部の歩行エリアが凍結しやすかったり、水跳ねがしたりする。保守管理に手間が掛かることも散水消雪が減じることにつながった。
散水消雪方式の縮小に代わり、路面の下に融雪用の配管を敷設する無散水式の融雪システムが増える。かつて、無散水融雪システムは重油や灯油、都市ガスなどを燃料にボイラをたき、温水を作り、路面下部の配管に温水を循環させる方式が主流であった。路盤の下に電熱線を埋め込む融雪システムも使われた。
地球温暖化防止が叫ばれ、世の中が脱炭素や脱化石燃料に向かい、未利用熱を活用した無散水融雪システムに注目が集まる。河川や湖沼、海水熱、温泉排湯熱や下水熱などの利活用技術が発達した。例えば、国土交通省は、2002年に福島県の猪苗代湖の脇を通る国道49号線の融雪に、湖水熱を熱源とするヒートポンプ融雪システム(PHES)を導入した。
外気温や風速、降雪量などの気象条件により全ての場所に適応できる訳ではないが、多くの地域で地中と路面融雪を配管でつなぎ、不凍液を含んだ水を循環させるだけで、融雪が可能なシステムがある。図の地中熱利用無散水融雪システム(BHES)である。エネルギーに掛かるコストは循環ポンプを稼働させる電気代のみだ。熱源には自然エネルギーだけを利用することからフリーヒーティング融雪システムとも呼ばれる。保守管理も容易である。
長野県飯山市内の公道に導入した事例(融雪面積1588平方メートル)では、電熱線システムに比べて、消費電力量が86%削減した。福島県福島市内飯坂にある民間の廃棄物処分場構内道路は、第1期のボイラ熱源方式と第2期のBHES(融雪面積4490平方メートル)との比較で、二酸化炭素排出量を93%も削減できた。
地中熱利用無散水融雪システム(BHES)は、財布(ランニングコスト)にも、地球環境にも優しい。
(国際観光施設協会エコ・小委員会委員、東北文化学園大学客員教授、元・福島大学特任教授 赤井仁志)
図 地中熱利用無散水システム・BHES(Borehole Heat Exchange System)〔ミサワ環境技術ホームページから〕
(観光経済新聞2025年4月14日号掲載コラム)