地域活性化センター シニアフェロー 金丸弘美氏に聞く

  • 2022年4月7日

金丸氏

地域活性化に求められるものとは

広域デザイン、地域全体で経済回す視点を

 社会環境の変化、価値観の変化の中で、地域産業も大きな転換期を迎えつつある。今、地域の活性化には何が求められるのか―、食環境ジャーナリストであり、一般財団法人地域活性化センターのシニアフェローも務める金丸弘美氏に聞いた。

 ――地域活性化に、まず求められるポイントとは。

 一つは、自治体が主体となり、しっかりとした全体の総合デザインを考えることが重要です。例えば、観光振興だと言いますが、よく聞くと観光資源は名所旧跡だけを指しているケースがあります。今、団体の観光客は激減しており、個人客が中心となっています。ニーズは多様化しており、以前のように有名旅館に宿泊して有名観光地を巡るような形には必ずしもなっていません。その地域が持つ資源が生かされていないのです。

 どのような花が咲くのか、どのような食材があるのか、また、ツーリングに向いている場所はどこか、何キロでどこの山に登ることができるのか、そんな地域の特長をしっかりと把握した上で、強みをどのように打ち出していくかが重要です。

 これまでの流れで考えてもうまくいきません。空き家が増えていますが、不動産事業の流れで「空き家貸します」ではだめです。リノベーションして宿泊施設にしても、その1棟だけでは弱い。地域全体で楽しめるような、広域で捉える必要があるのです。そうでなければリピートが回らない。地域全体としていかに経済を回していくかというデザインが必要だと思います。

 ――地域資産を生かすにしても、また、それを連携させるにしても人が重要になりますね。

 はい、もう一つ重要なポイントが人材の育成です。以前から人財育成が重要だといわれてきましたが、具体的にどのような人材を生かすのか、どのようなスキルを持つべきかと深く考えている自治体はあまり多くはありません。

 その中で注目しているのが田辺市(和歌山県)、高知県、そして熊本大学です。

 富山大学が行政と金融機関と一体で、高岡市、魚津市、南砺市で、地域の若い人たちがやりたいことを具体化するための人材育成事業を行いました。例えば、農家が新たな事業を展開しようとしたときに銀行がフォローして事業計画を作って融資するというものです。

 このスキームを使ったのが田辺市です。金融機関や商工会などが候補となる若者を紹介、人材育成事業を通して事業計画を立案、日本政策金融公庫が無担保無保証で融資します。候補者14人をさまざまなジャンルから選考したことがポイントで、彼らが連携して事業を展開することができるようにしています。例えば、レストランをやりたい人がいて、工務店の人が空き家をあっせんして店舗をつくり、農家の生産物を使い、ウェブデザイナーが情報発信をするといったかたちです。現在、6期生まで来ていますが、4期生までで新規事業が33件、起業率76・6%と、確実に実績を上げています。

 田辺市は、このノウハウを熊本大学に移転する協定を結びました。地銀、信金、県の信用協会、JAの金融も参加して協議会を発足、阿蘇市をはじめ7市町村で実績を積んで、熊本県全体に広げる計画です。地銀からJAまで入る組織は前例がありません。

 一方、高知県は2012年から人材育成事業をスタートしました。これは金融機関と5大学包括協定で、衰退する農業と商店を中心にスキルアップのための学びの場を作りました。するとホームページの宣伝が必要だ、加工品を販売するための営業が必要だとなり、高知大学で講座を作り始め、今では経理やウェブ関連など50以上の講座があります。

 こうした取り組みにより43件の起業があり、地域全体の所得が上がり、一昨年には約千人が移住してくるようになりました。これまで学ぶためには大都市に行かなければならない、地域には仕事がない、と若者が流出していたわけですが、仕事を創る人たちを創ることで地域が活性化したのです。

 自治体が第三セクターなどで事業を行うケースがありますが、ある自治体の担当者は「自治体には事業を行うスキルはない。だったら地元にいる若者、移住してきた若者のスキルを伸ばして仕事につなげていく、スモールビジネスを連携させることによって地域に経済を創っていく方が良いという結論に達した」と話してくれました。

 実は、このような取り組みはイタリアが1985年から行っています。中山間地の高齢化や若者流出、空き家の増加を背景に、若者に農家民泊をやってもらおうという取り組みです。といっても経営がうまくいかなければ補助金を出しても潰れてしまいますから、行政が金融機関、大学と連携し、インターンシップ制度を取り入れ、しっかりとした事業計画に対して投資したのです。イタリアには2万700件程度の農家民泊がありますが、その多くが40歳程度の若い人が経営しています。その背景には、こうした人材育成制度があるのです。

 ――先ほど、地域が持つ資源が生かされていないというお話がありました。そうした資源をどのように地域活性化に生かせるのでしょうか。

 地域の人にとっては当たり前のことであるような資源が多く眠っています。第三者の視点で、もう一度地域資源を見直し発掘することが必要だと思います。今まで気付かなかった海の浜辺とか、山の花や鳥などの自然生態などはコアなファンがおり、大きな地域資源です。例えば、何気ない風景だと思っていた森が野鳥の会の方々にとってはものすごい価値を持ったものかもしれません。

 もう一つ、大きな問題は、それらと泊まるところとのマッチングができていないことです。野鳥を観察するための場、宿泊するゲストハウス、地域の食を楽しめる場がマッチしておらず、非常にもったいない。それらを組み合わせ、連携させることで新しい観光のシステムを創ることができます。

 日本でも農家民泊が増えてきましたが、ビジネスの視点が抜けています。例えば、農家が料理を作るものだと勘違いしています。ヨーロッパの農家民泊では基本的に料理は作らず、近くの農家レストランに行けば地元のものを食べることができるという仕組みになっています。こうした広域連動の仕組みが、まだ日本にはありません。

 ――新しい観光のシステムということですが、観光業に携わる方々にとって重要な視点とは。

 やはり広域のデザインが重要だと思います。これまでのホテルや旅館の囲い込みではなく、地域全体で経済を回すという視点で組み直すべきだと思います。

 例えば、イタリアでは1975年ごろから、地域に点在する空き家などを活用して、まちを丸ごとホテルに見立てるアルベルゴ・デフィーゾ(分散したホテル)という取り組みを進めており、100カ所くらいあります。

 日本でも同様の取り組みが進み、一般社団法人日本まちやど協会も設立されています。この協会の理事も務める岡昇平さんという建築家は、香川県高松市で親から継いだ銭湯をおしゃれにリノベーションし、隣の家をリノベーションして宿泊できるようにして、少し離れた若者が経営するレストランで食事ができる、まちが旅館というコンセプトの「仏生山まちぐるみ旅館」を展開しています。

 アルベルゴ・デフィーゾはもともと限界集落で始まったもの。岡さんの取り組みは銭湯を起点としています。観光に携わる方々も、地域の資産を違う視点で見直すことで新しい取り組みが可能になるのではないでしょうか。

 ――地域資産というと景観・景色が大きな価値になります。

 日本には景観法があり、景観条例も出されています。しかし、景観条例をつくった割にはあまり機能していないケースが多いように見受けられます。

 地域の景観は非常に大きな資産です。これまで便利さを求め、道路をつくりロードサイド店が建ってきましたが、結果、非常に画一化した景色になってしまっています。若者からすると面白くもなんともない。それぞれのパーソナルに魅力を感じる価値観が広まっているのです。

 兵庫県豊岡市は城崎温泉の旅館街が有名です。大正時代に震災で崩壊したとき、丈夫なビルを建てようとしたのですが、地元住民が反対して木造としました。高度成長期にはあまり注目されませんでしたが、高度成長期を過ぎたあたりから日本らしい風景だとインバウンドが非常に増えた。日本らしい風景があり、地元のものを食べる場がありと、地域連携を進めた成果だと思います。

 これまでの景観への取り組みは中途半端なところがあって、景観条例で街並みは伝統建築物になっているのだけれども、お土産屋さんで売っているものが仕入れ品とチグハグ。つまり全体のマネジメントができていないのです。今、パーソナルであることの訴求力が高くなる中、地元の四季を意識した食や物販などを併せて考えていく必要があると思います。

 

金丸氏

 
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