【withコロナ時代の旅館経営への提言】「リトリート」に意識を 国際観光施設協会 副会長  涌井史郎氏


涌井副会長

 「まち起こし」の時代は終わり、今は「まち残し」の時代だ。旅館・ホテルは地域全体を活性化させたり、休業や倒産することで埋没させたりする機能を持っている。新型コロナウイルスで旅館・ホテルや観光業がダメージを受けることは、まち残しができるかどうかの局面にあるといえる。

 コロナ禍の終息には3~4年かかるのではないかと思う。政府は経済を回すためにアクセルを踏み、オーバーシュートにならない限り何とかしのいでいく戦略だ。感染者は8~9月には漸減するだろうが、10月以降は第2波が第1波をしのぐ勢いで出てくるのではないか。ワクチンに期待がかかるが、コロナが変異する可能性もある。いずれにしろ簡単には終息しないだろう。

 ウィズコロナといわれ、ニューノーマル(新常態)という考え方が出てきているが、私は賛成だ。これまでのような「経済成長こそが幸福量を増幅させる」という価値観、ライフスタイルをコロナ禍は見直しを迫っている。行動変容を起こさないと持続的繁栄はできない。

 観光はこれまで人を楽しませることに特化してきた。いわゆるレジャー&リゾート志向だ。

 しかし、これからは慌ただしい日常から離れた静かな環境に身を置き、自分と向き合い、心身共にリセットする「リトリート」市場が伸びる。欧米ではすでにこのスタイルが主流となっている。

 旅館・ホテルはリトリートに対応できる要素を持っており、館内だけでなく、地域全体に広げる仕掛けができれば市場形成ができると信じている。

 私はNHKの「ブラタモリ」の制作に携わった。遠方よりも身近なところに知らないことがたくさんある、深掘りして楽しもうというのが趣旨であり、まさに今いわれる「マイクロツーリズム」だ。旅館・ホテルの経営者は客を呼ぶことに熱心で、自分が立つ場所の魅力が一体何なのか、深掘りしていない。そこにある資源をブラッシュアップした上で提供しないと通用しなくなる。

 例えが良くないかもしれないが、私は「乞食は王様の真似はできないが、王様は時として乞食の真似をしたがる」というのが観光の本質といっている(笑い)。

 観光は踊り場にある。社会が変わろうとしている今、従来の旅館・ホテルのスタイルで打席に立つのではなく、多様な変化球を打つことができるスタイルを作るトレーニングをやる時だ。足元を見よう。

涌井副会長

 
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