【2025教育旅行レポート】滝川中学校高等学校(和歌山方面、24年10月28・29日)


猟師体験では、女子生徒が積極的に鹿の角切りなどを行った

猟師体験では、女子生徒が積極的に鹿の角切りなどを行った

 多感な高校生にとって教育旅行(修学旅行)は学生時代の一大イベントだ。楽しみでもあり、また不安でもある。非日常の場に身を置き、その土地ならではのものに触れ、見て、人と接することで視野が広がることもある。ここでは充実した教育旅行(修学旅行)を実施する2校の取り組みを紹介する。

体験通して自ら課題発見 6年間の探究学習に深み

 神戸市の中心部、三宮から電車で約10分、昭和の雰囲気を残す板宿商店街を抜けた先にある、滝川中学校高等学校(兵庫県神戸市、下川清一校長)。難関大学への進学などを目標にした生徒が、神戸や姫路はじめ兵庫県一円から通ってくる創立107年の伝統校だ。「リーダーシップ教育」を掲げ、異年齢でのグループワークなどを積極的に導入。学力だけでない次世代のリーダーの育成に取り組んでいる。今年度からは女子生徒を迎え入れ、共学校として新たな歴史を刻み始めた。

 同校は22年、これまで高校1年生の4月に実施していたオリエンテーション合宿を一新して、「探究学習合宿」を開始した。「生徒たちは、受験勉強やコロナ禍などで野外での体験活動の経験が少ない。外に出てさまざまな体験をする中で、非認知能力やコミュニケーション能力の育成、情操教育的な面も含めて取り組もうという方針になった」と話すのは、同校探究学習室長を務める、阿曽佑也中学校教諭。高校2年生で進路を見据えた自由課題での探究学習を行うことから、その前段階として探究学習合宿を位置付け。さまざまな体験を通した生徒主体での課題発見や、課題解決に向けた調査、分析、レポート作成、発表など、調査学習に関わる一連の経験を積ませることが同合宿の目的だ。

 初年度の22年度は、コロナ禍の影響もあり、県内の丹波篠山市で実施。その後旅行会社の提案を受けながらプログラムの練り直しを行い、23、24年度は和歌山県内で、体験プログラムと熊野古道の道普請を組み合わせた合宿を行った。「世界遺産に関わる問題なども学習しており、世界遺産を間近で見られるだけでなく修復にも携われるところに興味を持った。海も山もあり、さまざまなプログラムを組むことができるのも決め手だった」と話すのは、探究学習室副室長の千葉康之高等学校教諭。今年度は10月28日から1泊2日で実施。1日目は友ヶ島、中田の棚田、狩猟体験、漁業体験、アドベンチャーワールド、京都大学白浜水族館・南方熊楠記念館の6コースに分かれて体験学習を行い、2日目は熊野古道の道普請に取り組む内容だ。

 同校の探究学習合宿は、事前の調査学習と現地での体験を経て、最終成果として設定課題についてのまとめ発表を行うのが全体の流れ。2学期初めに生徒たちに参加する体験プログラムを選択させ、クラス関係なくプログラムごとに事前学習に取り組む。合宿では体験を通した新たな課題の発見を目指すが、「生徒自身での課題の発見自体が難しい」(千葉教諭)。そこでまずは地球温暖化など一般的な社会課題や一部の体験プログラム提供者から提供を受けた課題のヒントについて、おのおのの興味に沿ってグループに分かれて調査学習を行った。体験プログラムに関わる一般的な問題について課題意識を持つことで、体験を「自分ごと」にするとともに、体験から課題発見のきっかけを持ち帰ることを目指したという。

 体験プログラムのうち漁業体験では、実際に漁船に同乗して一本釣りや刺し網の様子を見たり、魚群探知機の見方について説明を受けたりした。狩猟体験では実際にわなを仕掛けたり、事前に捕らえた鹿の解体を体験したりした。いずれのコースでも生徒たちは、事前学習で学んだ温暖化や獣害などについて、現地のプログラムを担当した漁師や語り部などから生の声を聞き取った。「ここ数年で取れる魚が変わったとか、お金の問題とか、非常にリアルな声を聞けたのは良かった」と千葉教諭。波が高く船が出港できずに上陸できなかった友ヶ島のコースでも、事前に学習した漂着ゴミなどについて、語り部らに質問する姿が見られたという。

 合宿後にはグループごとにテーマを決め、課題解決について発表を行った。テーマは「棚田再生の意義」「獣害防止に向けた取り組み」「漁師の人手不足対策」など。事前学習と現地での聞き取りなどを生かしたテーマの設定や課題解決に向けた方策の提案など、「探究学習の一連の学びと発表で非常に多くのことを考える機会になったと思うし、2年生での自由課題設定に向け、確実に力が付いたと感じている」と千葉教諭は総括する。

 約80人が参加した友ヶ島のプログラムで島に渡れなかったことなど、天候に左右されるプログラムへの課題はあったが、「漁師体験など、本当に課題を抱えている現場の方は、生徒に熱心に向き合ってくださり、非常にありがたかった」と千葉教諭。同校ではプログラムの入れ替えなどをしつつも来年度も和歌山県での探究学習合宿を実施する予定だ。

 理想的な教育旅行について千葉教諭は、「単純な観光や『楽しかった』という思い出だけで終わるのではなく、生徒自身が何か新しい発見ができる旅行」、阿曽教諭は「学校での学びと社会の動きを肌感覚で学べるという点では実体験に勝るものはなく、それは大事にしていきたい」と語った。

猟師体験では、女子生徒が積極的に鹿の角切りなどを行った
猟師体験では、女子生徒が積極的に鹿の角切りなどを行った

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