
7月10日放送の「アブノーベルSHOW これがまさかの大発見!?」(RKB毎日放送制作)で「高級すし店の大将は、なぜ無愛想なのか」というユニークな実験結果が取り上げられていた。
高級店の接客サービスについて研究を進める京都大学経営管理大学院山内裕教授は、高級店には客が上か、あるいは店が上かといった関係性が存在しており、そのシーソーゲームの中に新たなサービスが隠されているという。例えば、紹介がないと入れない隠れ家的高級バーやミシュランガイドで星を獲得するような高級すし店には、メニューがない。バーテンダーや店主は一言、「いかがいたしましょうか」と聞くだけでメニューを差し出すことはない。
山内教授はこの時点から店は客を試し、客は店を評価するシーソーゲームが始まっていると指摘する。客はメニューがなくても、その店にふさわしい振る舞い方で、スマートに注文を終えなければならない。初めて訪れた店や高級店に慣れていないと、場の雰囲気にのまれて極度に緊張してしまう可能性もある。
高級店におけるサービスエンカウンターには店主と客による言葉の駆け引きがあり、それが双方に程よい緊張感をもたらす。客はその緊張感を味わうために高級店に足しげく通い、常連客になっていくのである。
先の番組でレポーターの若手芸人が高級すし店の店主に「ハマグリは塩味とタレどちらにしますか」と尋ねられる場面があった。芸人は思わず「大将のおすすめは?」とおもねるように返答。店主はこの答えから客のサービス経験値が高くないことを察し、失笑しながら塩を薦める。山内教授のシーソーゲーム説でいえば、この時点では明らかに客の負け、店主の勝ちと言えよう。
一方、店主が常連客に同じ質問をしたところ常連客は「タレより塩のほうがハマグリの味が分かる。(親方がハマグリに)自信があるなら塩。自信がなければタレで」と切り返してきた。芸人相手では余裕を見せていた店主だったが「あっでは、塩で」と返し、慌ててハマグリを握り始めたのである。これでは店主の負けである。両者の丁々発止のやりとりは延々と続く。
翻って旅館の場合。旅館文化に造詣が深く、先のバーテンダーやすし店の店主のように客とシーソーゲームを楽しめるような現場スタッフは、正直、そう多くはいない。
たとえ施設や館内備品に多額の資金を投入したとしても、そこに旅館文化を伝承するもてなし力や対人接客力を有する人材がいなければ、それは単なる高額旅館にすぎず高級旅館とは言えない。
ただし、すべての高額旅館が緊張感を伴う高級なもてなしを目指しているわけではない。中には「もう一つのわが家」のようにあえて緊張感を払拭(ふっしょく)している高額旅館もある。飲食業界の高額=高級説が、必ずしも旅館業界で受け入れられるとは限らないのである。