
事業承継を円滑に進めるには、オーナー一族以外の役員を活用することが有効である。旅館・ホテル業界では、社長や女将、会長、大女将、若旦那や若女将といった肩書をもつ、オーナー一族が経営の中心を担うことが多い。経営に必要な知識やスキルを一族内で補いきれないこともあり、適切な補完関係を築けなければ、経営のバランスを崩す要因にもなりかねない。
マーケティングや営業に才覚のある一族が中心の旅館・ホテルでは、webマーケティングやSNS対策等による新規顧客の獲得には積極的だが、財務管理が甘くなり、借入金が膨らみやすい。内向的で保守的な人物が一族に多い場合は、財務管理は堅実でも、付加価値を高めるための新たな設備投資やサービス改革が進まず、競争力を失う恐れがある。こうした問題を解決するには、外部の専門家を社外役員やアドバイザーとして迎え、経営の弱点を補うことが望ましい。
また、総支配人(内務担当役員)や財務担当役員には、一族以外の信頼できる人材を採用するのが望ましい。総支配人が一族以外であれば、後継者が苦手とする業務をフォローし、組織全体の調整役としても機能する。財務の専門家を登用すれば、資金繰りや投資計画の適正化が進み、金融機関との交渉力も高まる。経営の安定には、こうした外部人材の力を積極的に活用することが重要である。
オーナー一族以外の人材を役員として登用することは、親子間の感情的な対立を避けるうえでも有効である。後継者が経営判断を下す際、先代が直接口を出すと、親子関係が影響し、冷静な意思決定が難しくなることがある。血縁のない外部役員を介せば、客観的な意見が入りやすく、後継者の決断をサポートする環境を整えることができる。
M&Aによる第三者への事業承継も増えている。後継者が不在の企業や、一族内に適任者がいない場合は、第三者への譲渡が選択肢となる。企業価値の向上や経営ノウハウの継承が課題となるケースでは、株式譲渡や事業譲渡による経営統合が有効な手段となる。事業承継においては、親族内での承継だけにこだわらず、幅広い選択肢を視野に入れることが望ましい。
(アルファコンサルティング代表取締役)
(観光経済新聞25年3月17日号掲載コラム)