【草津温泉活性化座談会】地蔵エリア再整備、「裏草津・地蔵」が完成


ウィズ・アフターコロナ後の観光の起爆剤

 「にっぽんの温泉100選」(観光経済新聞社主催)で18年連続第1位という輝かしい実績を誇る草津温泉(群馬県草津町)。新型コロナウイルスの影響を受けながらも、今年6月には新たな観光スポット「裏草津・地蔵」が完成。ウィズ・アフターコロナ時代の集客施設として期待されている。変貌を遂げる草津温泉の現状と課題をキーマン4氏に語っていただいた。司会は森田淳編集長(11月中旬、町長室で)

 

 ――新型コロナウイルスで、草津温泉も影響を受けたと思います。

 

 黒岩(信) 「感染拡大を防ぐ」「経済を回す」の二つを柱に、できる限りの手を打ってきた。他の温泉地と比べればダメージは少なかったと思う。10月からの緊急事態宣言解除を機に、入り込みも増えはじめ、湯畑もにぎわいをみせつつある。団体、修学旅行も増えている。Go Toトラベルが再開されれば、女子会や卒業旅行も期待できる。明るい兆しが出てきている。

 

草津町長 黒岩信忠氏

 

 市川 町の人口の9割は観光で生業をたてています。コロナ禍は観光に大きなダメージを与えましたが、行政の支援、事業者の賢明な努力もあって、協会員(356軒)で倒産したところは1軒もありません。草津の一番の強みは行政、議会、商工会、観光協会、旅館組合の5団体の足並みがそろっていること。その都度情報交換を行っており、スムーズに事が運んでいます。

 県の「愛郷ぐんまプロジェクト」に呼応し、町は利用者に1人1泊当たり2千円の共通クーポンを出してくれています。愛郷の補助額5千円と合わせると計7千円になり、旅行需要喚起に役立っています。町の支援に感謝しています。

 

草津温泉観光協会会長 市川薫氏

 

 黒岩(信) 官民が集まり、その場で意思決定し行動に移す。スピードが何より大事だ。ましてやコロナは時間との戦い。対応が遅れれば取り返しのつかないことになる。ダメージを少なくするためには官民の協力が欠かせず、その点とてもうまくいっている。

 黒岩(裕) コロナ禍となって、今までは客足が途絶えた時期もあり、休館を余儀なくされた施設も多く、厳しい状況が続いていた。誘客対策など組合活動も思うようにできなかった。年明け早々、Go Toトラベルが再開されそうだが、そうした支援がなくてもやっていけることをみんなで考えていく必要がある。また、前回のGo Toトラベルについては混乱もあっただけに、早めの情報提供をお願いしたい。

 

草津温泉旅館協同組合理事長 黒岩裕喜男氏

 

 直井 行政はもちろん、みんなの協力もあり、コロナ対策は100%できたと思う。観光地は楽しいところじゃないといけない、と思っており、対策を講じながら宴会をやろうと言ってきたが、宣言が解除され、ようやくその動きが見えてきた。クーポン券の効果に期待している。

 11月20日から湯路広場で「湯畑ツリー&イルミネーション」イベントが始まった(~2月14日)。楽しめるところにお客さまは来てくれ、それで町は潤う。

 

草津温泉商工会会長 直井新吾氏

 

 黒岩(信) 町長就任時、入込客数は年間267万人だったが、観光まちづくりを進め、コロナ前には327万人まで増えた。コロナ禍で急ブレーキがかかったが、状況は好転しつつある。直井会長も指摘されていたが、観光地に魅力があれば多少交通の便が悪くても人は来てくれる。まちづくりに終わりはない。今後も町の大改造に努めたい。

 

 ――入込客数の推移はどうなっていますか。

 市川 2018年は310万人、19年は327万人でしたが、コロナの影響で20年は165万人にとどまりました。例年の6割の入り込みです。皆さん外出できず、ストレスもたまっていると思いますが、旅することや温泉は心と体の回復に欠かせないと、改めて気づいたのではないでしょうか。草津はそれを満足させる条件が整っています。

 黒岩(裕) 10月の宣言解除からお客さまの動きが活発化してきた。特に中旬からの愛郷プロジェクト開始が奏功し、リピーターも戻りつつある。第6波が起こらずこのまま推移すれば、イベントも打てるようになり、回復の足取りは確かなものになってくる。

 直井 私は廃棄物処理の仕事をしているが、ごみの量も目に見えて増えており、客足が戻っていると肌で感じている。ふらっと来てふらっと泊まるお客さまがだいぶ増えてきた。

 

 ――コロナ禍で倒産や廃業した施設はないというのは驚きです。

 市川 休館を余儀なくされた時期もありましたが、その間、改修や改装に着手した施設も多かったです。体力があるのでしょうね。厳しい環境の中、6月には新しい施設もできましたよ。

 黒岩(信) 来年以降、(全国展開しているような)大手宿泊事業者が新しい施設を造る計画もある。

 

 ――温泉街の表の顔である湯畑に対し、地蔵源泉エリアを「裏草津」と位置づけ、再開発を進めてきました。

 黒岩(信) 訪れる人が少なかったこの地域を「裏草津・地蔵」として整備し、のんびりと過ごす新たな名所にしようと。湯畑のようなにぎわいは求めておらず、町の奥深さを感じてもらえればうれしい。

 今年6月に完成した。緑の植栽をした段々畑のような「高台広場」、県出身の漫画家や著名な漫画家らの1万冊を超える漫画を集めた「漫画堂」、開放感あふれるカフェ「月の貌(かお)」のほか、温泉の蒸気で顔を潤す「顔湯」や「手洗乃湯」「足湯」、展望デッキなども整備した。

 また、絵や文字を書いた石灰石を温泉に漬けて作る「百年石」の体験館も造る。来年1月にはオープンする予定だ。総事業費は約10億円となっている。

 市川 話題性のある新たな施設、まち歩きの懐が広がるということから、多くのお客さまにご利用いただき、足をお運び下さればご満足いただけることと思います。

 黒岩(裕) 湯畑の整備が完了して、次は地蔵地区「裏草津」が完成するにあたり、草津の懐の深さをお客さまには感じていただきたい。そのためには、お客さまへのご案内やおもてなしなど、旅館業としてソフトの面から草津温泉を支えていきたいと考えている。

 直井 草津温泉はテーマパーク。何か新しいことをやらないと飽きられる。町長は「夢を売る」というがまさしくその通り。その意味では裏草津は新たな夢を見させてくれると期待したい。

 

 ――「温泉門」を造る計画もある。

 黒岩(信) 温泉街の玄関口である国道292号沿いに渋滞解消のための立体交差点を整備するが、それに合わせ温泉が流れる門を造る。温泉門の近くには100台以上が駐車できる無料駐車場も造る。駐車場から門をくぐって湯畑へつながる中央通りは、車道と歩道を区別し、もみじを植栽するほか、もみじ公園を整備し、新たな人の流れを創出する施策を検討している。

 

 ――夜の演出にこだわっていますね。

 黒岩(信) 湯畑などのライトアップに加え、町役場とバスターミナルもライトアップする。夜にこだわるのは泊まってほしいから。夜ならではの草津の顔を楽しんでいただきたい。

 

 ――コロナ対策と経済活動を両立するウィズコロナ社会に向けた意気込みを。

 市川 観光の原点は町の自慢だと思います。それがたくさんあればあるほど人を引き付けられます。自慢できるものを作るには町全体が一体となって取り組むことが必要です。草津の魅力に磨きをかけ、次世代につなぐことも重要で、それに値する人材を育成するのも私たちの使命です。

 黒岩(裕) 「草津温泉に行くといつも何かをやっており、とてもにぎやかで楽しい」と思われているのがわれわれの強みだ。今までのやり方にコロナ禍の経験を生かしたプラスアルファを考え、早くイベントの再開にこぎつけたい。OTAを含めた旅行業界との関係も急激に変わっているので、新たな関係も模索したい。

 直井 情報を共有し、報告・連絡・相談を今まで以上に徹底し、一番を目指していく。

 黒岩(信) 魅力ある温泉地を創るためにも立ち止まってはいられない。温泉門を中心とした計画は「100年先を見据えたまちづくり計画」における序章としての集大成としたい。

 また、脱炭素社会実現に向け、再生可能エネルギーの動きが加速する。草津は温泉を利活用した融雪道路や温水供給による二酸化炭素(CO2)を年間1万6千トン削減に成功している元々エコな町だ。

 草津にも地熱発電の問題が出てくることも予想されるが、大温泉地を発電のために犠牲とすることはよしとしない。条例を制定し、歯止めをかけたい。制定が実現すれば全国初となり、無秩序な開発に一石を投じられればと思う。

 

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