【私の視点 観光羅針盤 485】ジャングリアの二重価格と展望 吉田博詞


 7月25日、沖縄県本島北部今帰仁村に大型テーマパーク「ジャングリア沖縄」が開業した。60ヘクタールの土地に700億円が投資され、15年で6・8兆円の経済効果があると試算されている。また、第2パーク構想の可能性も発表されている。
 
 注目要素は先進的な世界観や投資規模だけでなく、チケット料金の二重価格設定である。日本国内の大人(12歳以上)は6930円、海外在住者は8800円、スパは国内2640円、海外3080円となっている。在留カード所持者(留学生、技能実習生、外国人労働者、永住者など)は、日本人と同じ国内料金が適用されることになっている。この価格設定は国内のテーマパークでは初めてで、賛否の声があがっている。
 
 しかし、観光の国際的な視点から見れば、こうした価格設定は決して珍しいことではない。むしろ「世界水準」に即した、理にかなった手法であると考えている。
 
 テーマパークで見ると、ハワイにある「ポリネシア・カルチャー・センター」では、ハワイのIDを見せることで20~30%の割引が適用。シンガポールの「ナイトサファリ」も同様で10~30%の割引が設定されている。
 
 また、タイの有名な王宮や寺院では、外国人料金とタイ国民料金が明確に分かれており、エジプトのピラミッドも同様で、現地住民は極めて安価に入場できる一方、観光客には高めの料金が設定されている。アフリカの多くの国立公園や自然保護区でも、外国人と現地住民の入場料には数倍の差があるのが一般的だ。欧州でも、EU市民と非EU市民で価格差を設けている施設は少なくない。たとえばフランスのルーヴル美術館では、EU居住者の若年層には無料開放されているが、それ以外の訪問者は一般料金が適用される。つまり、国籍や地域に応じた価格の調整は、世界各地の観光資源で広く採用されている方法なのである。
 
 ジャングリアは、もともと沖縄から飛行機で4時間圏内に広がるアジア市場をターゲットにしていることもあり、ゆくゆくインバウンド比率が大幅に高まることが予想される。その際、ハワイやシンガポールの事例のように、通常価格が海外在住者向け価格で、現地在住者には割引が適用されるという考え方が標準となっていくのだろう。
 
 ジャングリアにおいても、こうした制度の背景にあるのは「その土地の文化・資源はまず住民のものである」という考え方だ。観光による経済波及効果が、地域住民の利益と乖離(かいり)してはならない。こうした価格戦略の背景には、地域住民がより安価に施設を楽しみ、観光収入を通じてインフラや雇用が強化され、結果として住民の幸福度が高まるという構図が期待されているはずだ。
 
 これまで内需中心だった日本においても、より各種施設における攻めの二重価格導入は加速していくことが予想される。あくまで在住者への機会提供拡大と事業性の追求、そして何より地域への経済効果を考えた総合的な価格モデルである哲学が明確になった導入が進んでいくことを願いたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
 
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