【私の視点 観光羅針盤 384】 大阪IRの行方 石森秀三


 広島市で開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)が無事に終了した後、世界は米中対立のさらなる激化、ロシアによるウクライナ侵略の深刻化、グローバルサウスの存在意義の高まりなどが生じている。世界が大転換する時代的状況の中、能天気な日本ではいま岸田首相がいつ衆議院を解散して総選挙に踏み込むかについてさまざまな論評が行われている。その中で最も注目すべき言説は、4月の統一地方選挙で大幅に躍進した「日本維新の会」が、今後の日本における政界再編で最も重要な役割を果たすだろうということだ。

 その大阪府・市でいま最もホットな話題は、「大阪IR(統合型リゾート)」である。4月14日に国土交通相は大阪府・市が申請したIR整備計画を認定した。1兆800億円を投じる整備計画で、2029年に大阪湾の人工島・夢洲に日本初のカジノを含むIRを開業させる計画だ。大阪IRと同時に申請された長崎県の計画(佐世保市内のハウステンボス)は今回認定されずに継続審査になった。

 大阪維新の会は2011年にIR誘致を掲げる橋下徹氏と松井一郎氏が大阪府知事・市長ダブル選で勝利した後、安倍政権の菅義偉内閣官房長官と緊密に連携して公約実現を図ってきた。今年4月にはIR誘致を進める維新の吉村洋文、横山英幸両氏が大阪府知事・市長ダブル選で勝利したために、政府は日本初のIR申請の認定に踏み込んだといえるだろう。

 大阪のIR事業は、米国MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人やオリックスなどが出資する「大阪IR株式会社」が実施する。その事業申請では、年間来訪者2千万人のうち、7割の1400万人は国内客が占めると想定されている。また年間売上高5200億円のうち、その8割をカジノが稼ぎ出すという申請だ。MICEやエンターテイメントを含む「統合型リゾート」とうたっているが、現実にはギャンブルに大きく依存する計画であり、ギャンブル依存症対策が極めて重要になる。習近平政権によるギャンブル規制強化によって、かつてのような中国のハイローラー(大金をかける上客)に期待できないために、日本人客の懐を狙うカジノ推進の是非が大きく問われることになる。

 大阪府・市は2025年に同じ夢洲で国際万国博覧会を開催する予定だ。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマにして、全世界から2820万人を集客する計画である。

 ところが夢洲は大阪湾の埋立地であり、ヒ素やダイオキシンなどの有毒物質の宝庫と批判されるとともに、地盤沈下の危険性も指摘されている。そのために大阪府・市は、土壌対策に788億円の公費負担を公表している。大阪IR計画は基本的に民間事業者が運営を行い、計画通りに進展すると、毎年1060億円の納付金を大阪府・市に納める予定であるが、現実にはどうなることであろうか。

 日本では今、少子高齢化、貧困化、経済的格差の深刻化などに伴って、国力も地域活力も著しく低下している。さらに世界の情勢も極めて不透明化しており、IR事業でバラ色の未来社会を切り拓くことは容易ではない。今後の大阪府・市の動きを注視していきたい。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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