
ここ数年、「夏こそ、温泉!」と提唱してきました。
今年は例年以上の暑さや雷雨、台風直撃と自然環境が厳しいので、私のまわりでも体調を崩している人が多いのです。そして夏の疲れがたまる残暑の時期を迎えます。
温泉の専門家としては、特に夏の疲れが出る「残暑こそ、温泉を」をキャッチフレーズに多くの方に伝えていきたいと思っています。
そもそも私が残暑の温泉の活用法を実感したのは10年ほど前のこと。
あの年も残暑が厳しかった。重たい体を引きずるようにして出かけた温泉地に、36度ほどの“ぬる湯”がありました。入った瞬間は冷たさを感じ、一瞬、震えもきたのですが、それでも入り続けて30分ほどたつと、体がほどけるように。そして湯から上がると、体中のコリがとれ、体がほかほかしていたのです。
ぬる湯だったからこそ、じんわりと末梢神経まで熱が行き届き、熱が体中に伝わったのだと思います。さらに、身体が弾むほど軽いのです。家を出る時のあの倦怠(けんたい)感はなんだったのだろうと思い返すと、冷房や冷たい水分を取り過ぎて、体内部の冷えからくる疲れ、だるさが理由だったことに気付いたのでした。
今年も暑さが始まった時分に、私が好きなぬる湯の一つ、貝掛温泉へ行きました。標高700メートルの避暑地にある温泉ですから、車から降りると、もう涼やかな風が迎えてくれたのです。
そもそも目に効くと伝えられてきた貝掛温泉なので、湯上がり処には煎じて飲めば老眼が回復するといわれるメグスリノキのお茶が用意されていました。入浴前に1杯。ほのかな苦みがおいしい。長湯する前には、水分補給が大切ですからね。
貝掛温泉のぬる湯に1時間半ほど浸かり、指先はしわしわになりましたが、やはり冷房のせいで冷えた体だったのです。芯まで温まったことで、体が軽くなっていました。
さて、では利用者として、旅人として、旅館やホテルの皆さんにリクエストがあります。
大浴場の温度設定を変えられる環境があるのなら、36~38度くらいのぬる湯状態にしてみてはいかがでしょうか。“涼プラン”は、きっとお客さんに喜んでいただけると思いますよ。
そしていまはSNSを活用すれば多くの人に伝えられる時代です。私が「#」を付けて、「#残暑こそ温泉」と記そうと思っています。もし涼プランを作られた際には、ぜひ、「#残暑こそ温泉」という一文を入れてSNSに拡散してください。私もリツイートやシェア致します。
(温泉エッセイスト)
※最終回。9月から新連載「山崎まゆみの『ちょっと よろしいですか』」がスタートします。