
竹内氏
家庭料理の定番でもある炒飯(チャーハン)。プロのようにご飯1粒1粒をパラッとさせるワザについては、諸説ある。温かいご飯に限るとか、いやいや冷やご飯だとか、雑炊を作るがごとくいったん水で洗うとか。油はラードじゃなきゃとか、油の代わりにマヨネーズを使うとか。調理道具も、熱伝導の良い鉄製の中華鍋に決まってるでしょと言う人、家庭の火力だと、火に当たる面積が大きい平らなフライパンの方が良いと言う人…。
こうして炒飯道を追い求める迷える子羊たちに、ある時福音がもたらされた。「黄金炒飯」である。ご飯粒を卵でコーティングすべく、あらかじめご飯と卵を混ぜてから炒める調理法だ。以前は卵を先に炒めて鍋から取り出し、出来上がる頃に戻すのが普通だったが、黄金炒飯の場合卵を具として成立させるのは諦めて、ご飯をパラパラにするためだけに卵を使うのだ。
これなら素人でも、ご飯がダマになりにくい。ついでに言うと、卵白は水分が多いので、卵黄のみ混ぜる方が成功率は高い。そのご飯は、1粒ずつが己の存在を主張し、かつ、卵色に染まっている。ゆえに「黄金」なのだ。冷凍炒飯売り上げナンバーワンのニチレイだって、ご飯粒を卵でコーティングする製法に、約4年もの開発期間をかけたというのだから、これこそパラッと炒飯作りの極意だろう。
ところが…。最近、パラッと炒飯に異論を唱える輩(やから)が増えてきたらしい。しっとりしている方がウマイ、というのだ。言葉を選ばずに言うなら、残り物のご飯を使うから、ご飯の水分が抜けてパラッとなるだけだと。それに、中国のお米はあまり長粒ではないが、れっきとしたインディカ米が主流だからパラッとするのであって、日本のジャポニカ米の良さを生かすなら、パラパラさせ過ぎてはイカンと。炊きたての銀シャリで作れば、しっとりするハズだと言う。
かつて「東の横綱」と呼ばれた品種ササニシキ。コシヒカリに次いで作付面積ナンバー2だったが、気象被害を受けやすく、1993年の冷害で起きた「平成の米騒動」で大打撃を受け生産量が激減した。同種はアミロース含有量が多いため、アッサリした食味が特徴。パラッと炒飯にピッタリだったが、コシヒカリや同系のひとめぼれが主流となり、粘り気のある米が増え、当然、パラッと炒飯を作るのは難しくなった。
無い物ねだりが人の常。パラッと炒飯がもてはやされるようになったのは、ササニシキが市場から姿を消し始めたのと時期を同じくする。ちなみに、同種は寿司(すし)酢を混ぜてもベタつかないので、今も寿司職人には人気があるそうだ。
結局、お米の炊き加減同様好みの問題だろう。それ以前に、おいしい炒飯が食べたければ、腕を磨かなくちゃ! パラパラの炒飯が作れると聞いて数年前に購入した、1枚の鉄板を叩いて鍋の形にする「打ち出し製法」の中華鍋がいまだ使いこなせず、筆者には猫に小判なのだから。あ、豚に真珠って言われそう?
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。