観光振興で地域存続を 運輸総研「持続可能な地域経営の手引き」


指標設定など11ステップで解説

 交通運輸、観光に関する研究機関、運輸総合研究所は、観光庁、国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所と連携し、「観光を活用した持続可能な地域経営の手引き」を作成した。自治体やDMOなどを対象に、観光振興を切り口とした持続可能な地域経営の実践的なマニュアルとして、必要な取り組みを段階を踏んで解説している。国際基準に準拠して観光地の持続可能性に関する指標を定めた「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS―D)」(観光庁作成)と連動させて活用することが期待されている。

 持続可能な地域経営の目的は、将来にわたって住み続けられる地域を維持し、住民の生活の質を向上させること。そのためには経済、社会・文化、環境などのあらゆる側面からの取り組みが求められている。手引きでは、観光振興への取り組みを通じて持続可能な地域経営が実現できるようノウハウが示されている。

 観光を活用して持続可能な地域経営に取り組む理由としては、(1)観光は、地域の人材、資源をフル活用することで魅力が高まる(2)観光は、住民との調和、文化資源や自然環境の保全を必要とする(3)観光は、交流人口、関係人口をつくる―などを挙げ、「観光は総合政策で、持続可能な地域経営にチャレンジする好適な政策分野」と指摘する。

 観光を活用した持続可能な地域経営を実現するステップを次の11項目に分けて解説している。(1)対象地域の決定(2)利害関係者の参画(3)観光資源と現状の課題の把握(4)なりたい姿の共有(5)重点課題の特定、合意の形成(6)重点課題の解決への取り組みの検討・共有(7)指標の検討(8)指標の計測手法の具体化(9)データ収集(10)指標の分析・評価と公表(11)指標や運営体制の改善。

 例えば、ステップ「(7)指標の検討」では、持続可能性の基本要素である経済、社会・文化、環境を考慮しながら、課題と指標を整理するよう提案。手引きには、課題に応じた指標例を具体的に示したほか、先進事例としてニセコ町(北海道)、釜石市(岩手県)、京都市(京都府)、東京都、沖縄県の指標例を掲載している。

 先進地域の指標例には、入込客数や宿泊者数、旅行消費額などの観光分野の代表的な指標のほかにも、「地元調達率(地場産品利用率)」「観光で生活が豊かになると考える住民の割合」「郷土芸能の活動団体数」「混雑、マナーなど市民生活への観光の影響」「観光における時期、時間、場所の分散化の状況」「バリアフリー対応」「来訪者におけるカーボンオフセットの実施人数」などが挙げられている。

 手引きは11項目のステップについて、「地域のなりたい姿を共有し、それを実現するための課題の抽出、課題解決の取り組みの検討・実施、指標を活用した効果測定、そして結果のフィードバックという一連のPDCAサイクルの具体的な進め方を示している」と説明している。

 ノウハウの解説以外にも国内外の先進事例を掲載。具体的には、ニセコ町▽釜石市▽三浦半島観光連絡協議会(神奈川県)▽岐阜県▽白川村(岐阜県)▽京都市▽沖縄県▽南チロル(イタリア)▽アドリア海(クロアチア)▽アレンテージョ(ポルトガル)▽スレマン(インドネシア)▽トムソン・オカナガン(カナダ)▽ブエノスアイレス(アルゼンチン)。

 運輸総合研究所では、11項目のステップを進める上で、検討内容を順次記入できる支援ツールとして、表計算ソフトを使ったワークシートをウェブサイトに掲載し、ダウンロードできるようにする予定。

 観光庁の「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS―D)」との連動については、「JSTS―Dは、観光分野における取り組み状況のベンチマークであり、地域の“健康診断”のチェックリストとして活用するのに有用だ。プロセスを丁寧に説明したこの『手引き』と共に活用することをお勧めする」としている。

指標を考える上での地域課題の例

【経済】
来訪者の季節変動・曜日変動
観光産業従事者の低賃金、人材不足
観光サービスの低価格化
災害や非常事態への耐力がない
観光消費額の地域外への流出
観光の他産業への寄与不足
【社会・文化】
住民の理解促進、満足度の低下
住民生活への悪影響(交通など)、寄与不足
文化財などの毀損
景観への悪影響(自然、街)
来訪者マナーの悪化
来訪者の情報不足
地域ブランドの毀損
【環境】
生態系の破壊
水・エネルギーの消費量の増大
ゴミの大量発生・不適切な処理
水質汚濁
耕作放棄地の保全
カーボンニュートラルの実現
※出典:運輸総合研究所「観光を活用した持続可能な地域経営の手引き」

 
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