
退任を前に最後の会見に臨む観光庁の和田浩一長官(6月28日)
高付加価値化「稼げる産業に変革期待」
観光庁の和田浩一長官は6月28日、国土交通省の幹部人事に伴う退任を控え、最後の専門紙会見に臨んだ。過去2年間の観光施策のかじ取りについては、「県民割」拡大や「全国旅行支援」開始のタイミングの判断が難しかったと振り返った。観光産業に対しては、高付加価値化などを通じた「稼げる産業」への変革を求めた。特に宿泊産業については、若い人材が業界に入ってくるよう経営の改善を期待した。
記者団との主なやり取りは次の通り。
――在任中の2年間で達成できたこと、やり残したことは。
コロナの真っ最中に着任したが、前半と後半では感じが違っていると思う。前半はコロナの時代で、感染拡大防止と社会経済活動の再開という非常に難しいかじ取りを求められる中、「県民割」の拡大や「全国旅行支援」をいつ開始するか、このあたりはとても難しい判断だった。おかげさまで昨年10月からは、水際対策の緩和もあり、ようやく需要が回復しつつある状況だ。
やはり持続可能な形で観光立国を復活させなければいけないという思いがあったので、宿の改修の支援、DX化など、多面的な支援ツールをしっかり用意していこうと、できる限りのことをやらせていただいた。
そして今年3月に新たな観光立国推進基本計画をつくった。三つのキーワード(持続可能な観光、消費額拡大、地方誘客促進)と三つの戦略(持続可能な観光地域づくり、インバウンド回復、国内交流拡大)を計画の中に落とし込んだので、これから2025年までの3年間の取り組むべき方向性は示すことができたと思う。
これからの課題という意味では、せっかくいろいろな制度が用意できたので、これを活用していただき、全国各地に成功事例をつくり上げていくことが大事だ。観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業であれば、こんなに地域が変わって良くなったというようなところをなるべく多くつくっていく必要がある。新体制のもとで、そうした成功事例を多く創出できるよう頑張っていただきたい。
――2023年度版「観光白書」では、コロナ禍からの需要回復が進む中、観光産業の生産性の低さなどを課題として指摘した。
観光産業は「稼げる産業」に変革していかなければならない。そのため、今、一生懸命取り組んでいる。例えば、観光地・観光産業の再生・高付加価値化、観光DX、そして宿泊業の経営ガイドライン・登録制度の創設など、さまざまな政策を総合的に実施している。
中でも再生・高付加価値化事業については、令和3年度からこれまで過去2年間で延べ291地域を採択して、宿泊施設の高付加価値化改修などを支援してきた。その改修を終えた客室の単価を見てみると、50%以上も上昇しているというような事例が挙がってきている。
この事業では、ベッド付き客室への改修によってベッドメイクの作業を効率化したり、食事処を整備して部屋食を廃止し配膳作業を効率化したりと、業務効率化や従業員の負担軽減にも資する支援を行っているところだ。こうした事業を通じて、観光産業の収益、生産性の向上を図り、観光産業が持続可能で稼げる産業に、そしてわが国の基幹産業に変革していけるよう取り組んでいくべきと考えている。
――宿泊事業者については、施設改修の支援だけでなく、高付加価値経営のガイドラインを作成し登録制度を設けた。今後の宿泊業界に期待することは。
宿泊産業はいろいろな課題を抱えている。経営という面で見ると、家業的経営でデジタルツールを使わずにファクスだったり、勘に頼った経営をしていたり、そういうようなところを近代化して経営という観点で見直していかなければ、なかなか持続可能な形になっていきにくい。
こういう認識のもとに宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドラインをつくり、登録制度をつくった。長年の商売のやり方を変えるというのは難しいと思うが、ようやく登録制度の登録数が100軒を超えるところまで増えてきた。これからさらに周知徹底を図り、登録数を伸ばしていかなければいけない。
また、宿泊産業は人手不足が課題だが、日本国内のさまざまな産業で人手不足が言われている。やはり、きつい労働、安い賃金、なかなか取れない休み、さまざまな課題があると思うが、少しでも労働環境の改善を図って、若い人を含めた新たな人材が産業に入ってくるようにしていかないと、持続可能にはなっていかないのではないか。しっかり官民で連携をしながら取り組んでいかなければいけない。
退任を前に最後の会見に臨む観光庁の和田浩一長官(6月28日)