観光庁長官からJNTO理事長に 日本政府観光局(JNTO)理事長 蒲生篤実氏に聞く


蒲生理事長

高付加価値な観光発信 訪日誘客で地方に貢献

 ――日本政府観光局(JNTO)の理事長に4月1日付で就任した。観光庁長官経験者では初めてだ。

 「長官を務めたのはコロナ下の1年間で、仕事のほとんどはGo Toトラベル事業などのコロナ関連の対応だった。インバウンドの誘客も考えられる状況ではなかったので、観光行政についてやり足りない部分があった。観光需要の回復が進む中、もう一度チャレンジしてみようと、理事長の公募に手を挙げた。これまでの約37年間の行政経験を生かし、もう一度、観光業界の皆さまのお役に立ちたいと考えている」

 ――着任した感想、組織運営で心掛けることは。

 「JNTOに着任して印象的だったのは、業務のデジタル化やダイバーシティが進んでいること。また、デジタルマーケティングなどDXにつながる環境もあるので、職員の新しい発想や取り組みを引き出していきたい。職員数では約400人の組織だが、海外25都市に事務所を持っており、その強みはしっかり生かしていきたい」

 ――今年3月の訪日外国人旅行者数はコロナ前の66%、訪日団体観光が再開していない中国を除けば84%に回復している。

 「昨年10月の水際対策緩和以降は堅調な回復、あるいは想定以上の回復と言っていいかもしれない。海外の方の旅行へのマインドはかなり高い。観光庁の観光再始動事業などと連動し、この回復の流れを確かなものにする必要がある。回復状況には国・地域差があるが、特定の国・地域に軸足を置くことなく、多様なポートフォリオを築くことがインバウンドの強靱(きょうじん)性につながる。市場ごとの特性を丁寧に分析し、メリハリを効かせた戦略的な施策を立てて実行していきたい」

 ――政府の観光立国推進基本計画には、訪日外国人1人当たりの消費20万円、地方での宿泊数2泊などの新たな目標が設定された。

 「地方に長く滞在し、より多く消費してもらうには、他の場所にはないユニークな体験を提供することが重要だ。消費額の増加には一定程度、富裕層などの高付加価値旅行者の誘致が必要になる。観光庁がモデル観光地を選定して取り組んでいるが、JNTOでは高付加価値旅行推進室を設置し、デジタルマーケティングなどを駆使して、高付加価値旅行者層のニーズを分析し、特に地方においてそのニーズに合った高付加価値なコンテンツを発掘し、情報発信することによって地方分散や消費額拡大に結び付けたい」

 ――アドベンチャー・トラベル(AT)も、地方誘客、消費拡大の観点から注目されている。

 「今年9月に国際組織による大型イベント、アドベンチャー・トラベル・ワールド・サミットが北海道で開かれる。北海道をはじめ日本各地で魅力的な体験ができることを知ってもらう好機なので商品造成や販路拡大に生かしたい。AT旅行者層や高付加価値旅行者層は、サステナブル・ツーリズムへの関心も高いといわれる。サステナブル・ツーリズムは、JNTOとしても今後の取り組みの重要な柱で、この対応を進めないと、感度の高い旅行者は誘客できなくなる。地域の環境、文化、経済の持続可能性を高める観光のプロモーションを重視したい」

 ――コロナを経て地方がインバウンドに寄せる地域活性化への期待は大きい。

 「インバウンドは、旅行消費による経済効果にとどまらず、日本社会をバージョンアップさせる力を持っている。これまでもインバウンドの増加が日本社会の外国人に対する意識を変えてきた面がある。訪日外国人の地方誘客がさらに進めば、地方に新しいビジネスが生まれ、若い人の定住につながるのではないか。現にインバウンドに可能性を見いだして新たなビジネスを立ち上げる若い人が増えている。人口減少が進む中、インバウンドを通じて地方創生に貢献したい」

 ――国内の観光関係者との連携の在り方は。

 「清野智・前理事長がDMOや自治体との連携強化に努めてこられた。それを受け継ぎ、発展させていきたい。観光コンテンツの情報発信、プロモーションへの助言、地方での研修会開催などで地域を支援していく。産業界については、人手不足が深刻な問題と認識している。受け入れ態勢の問題が、インバウンドの本格的な回復の制約要因になりかねない。インバウンドが旅行需要の平準化や生産性の向上、従業員の待遇改善にもつながるよう、観光庁と連携し、産業界を支援できればと考えている」

 

 蒲生 篤実氏(がもう・あつみ)1985年東大法卒、運輸省(現・国土交通省)入省。海事局長、鉄道局長、総合政策局長など。2020年7月~21年7月に観光庁長官。福島県出身。62歳。

【聞き手・向野悟】

 
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