
宿泊業・旅行業の強化、観光地再生
産業、地域一体の戦略を
観光庁の有識者会議「アフターコロナ時代における地域活性化と観光産業に関する検討会」(座長・山内弘隆一橋大学名誉教授)の第2回会合が8日に開かれた。コロナ禍による観光需要の減少、旅行ニーズの変化、従来型ビジネスモデルの行き詰まりなどの課題を踏まえ、観光を通じた地域活性化にいかに取り組むべきか。先進地域からの事例発表や委員による意見交換では、観光産業と自治体などが一体となった戦略構築、事業推進における連携強化の必要性が指摘された。
検討会は昨年11月に設置された。委員は、観光関連の団体や企業、自治体、政府系金融機関の代表、大学教授など17人。観光産業の強化策、地域の活性化策を検討している。3月中旬に報告の骨子を、5月中旬には最終報告をまとめ、観光庁などの施策に反映させる。
先進事例
委員による意見交換に先立ち、観光産業と地域が一体となった先進事例として2地域が取り組みを発表した。
山形県・天童温泉のDMC天童温泉の山口敦史代表取締役(ほほえみの宿滝の湯)は、地元の旅館が出資して設立した旅行会社、DMC天童温泉の事業を説明した。「地元発意型」の旅行商品として、地元旅館への宿泊につなげることを目的に「朝摘み」にこだわり、果樹園と連携したサクランボ狩りツアーを造成しヒットさせた。観光庁の既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業(自治体・DMO型)では、事業のテーマにユニバーサルツーリズムを掲げる推進役となり、テーマに基づく旅館の改修、地域の環境整備を推進した。
山口氏は「地域で一つのテーマやコンセプトを設けて、旅館づくり、地域づくりに同じ目標を共有することで、地域内の連携を強化できた。これまでにつながりがなかった介護事業者など他業種とも連携することで新たなサービスが生まれている」と報告した。
大洲市(愛媛県)による歴史的資源を活用した面的な観光まちづくりについては、二宮隆久市長らが紹介した。行政、事業者、金融機関が連携協定を締結し、城下町に点在する町家や古民家を宿泊施設などに改修、運営、集客する事業を展開。分散型ホテルの「NIPPONIA HOTEL大洲城下町」、大洲城の天守を宿泊に活用する「大洲城キャッスルステイ」などを生み出した。
大洲市の担当者は「歴史的資源などの地域特性を生かした宿泊業を観光産業の主力に位置付けた上で、宿泊による地域への経済波及を強くイメージし、観光まちづくりの戦略を立てている。官民連携のもとで役割分担も重視し、合意形成、資金調達、マーケティング、プロモーション、コンテンツ開発などの各局面でそれぞれに長所を発揮している」と説明した。
意見交換
事例発表を踏まえて委員が意見交換。観光産業と地域が一体となった地域戦略の構築について、じゃらんリサーチセンター・センター長の沢登次彦氏は「磨きこむ方向性を定め、地域で合意形成し、官民の役割を定めて、投資を誘発し、価値を創造していくプロセスが必要だ。地域全体で考えるべきは未来志向の地域戦略の再構築だ。地域戦略に必ず盛り込む必要性があるのは持続可能性、SDGsだ。若い人や、意識の高い外国人はここに感度がある地域なのかを見ている。もう一つは差別化だ。ここに行く価値、ここにしかない価値をどう出していくかが重要」と指摘した。
地域の合意形成や関係者の連携について東京女子大学教授の矢ケ崎紀子氏は「合意形成というのはとても難しいが、地域一体となって取り組む現場をたくさんつくって、積み重ねることが大事だ。DMOも重要なのだが、事業性の高い現場をつくるためには、DMCなどの企業体が必要になってくる。ステークホルダーが異なる現場をいくつも持つことで、地域の広範な連携態勢ができてくる」と提言した。
産業界からは、全国旅行業協会(ANTA)副会長の近藤幸二氏が、全国各地の中小旅行会社による地域活性化への貢献について、「これまでは団体を連れて旅行に出ることが中心で、地元への誘客には力を入れてこなかった。しかし、アフターコロナを考えるとき、着地型旅行の造成やイベントの誘致を考える必要がある。地元の自治体や観光協会と連携し、地域の良いものを前面に出し、誘客、まちづくりに積極的に取り組めるようにしたい」と意欲を示した。
宿泊業の現状については、日本旅館協会会長の浜野浩二氏が「コロナ禍で各旅館の体力が落ち、同時に地域力が低下している。なかなか期待されるような新しい発想を実行できない。現実として多くの旅館の施設が劣化しており、旧態依然とした団体型で新しい旅の形態にそぐわない。労働力不足も今後深刻になる。まずは、給与や休暇などの労働環境の改善に旅館や地域が取り組んでいく必要がある」と語った。
国や自治体の支援の在り方では、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の多田計介会長が「最近の観光庁の支援策はともかく、これまで国がわれわれの産業に本腰を入れて投資してきたかというと疑問だ。入湯税や宿泊税でも、集めるのは宿泊施設だが、どれだけ支援してもらっているか。建物の固定資産税も評価額が下がるまでに長い期間がかかる。こうした問題をコロナ禍を契機に組み立て直す必要がある。産業的には成熟しておらず、まだまだ支援が必要だ」と訴えた。