京都府舞鶴市は11月20日、東京都内で記者会見し、市が運営する舞鶴引揚記念館の収蔵品「シベリア抑留や引き揚げに関する資料」について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界記憶遺産」登録を目指す、と発表した。会見には多々見良三市長、同記念館の山下美晴館長、東京女子大の黒沢文貴教授らが出席した。
第2次世界大戦の敗戦に伴い、政府は海外に残された日本人を帰国させる引き揚げ事業を開始するため、1945年から舞鶴をはじめ、呉、佐世保などを引揚港に指定。舞鶴港は45年から13年間にわたって旧ソ連や旧満州などから約66万人の引き揚げ者と遺骨1万6千余を受け入れており「日本人の引き揚げの記憶を象徴する港」(同市)となっている。
しかし、戦後70年近く経ち、戦争を知らない世代の増加とともに、引き揚げの史実は過去の出来事として年々薄れつつある。多々見市長は「わが国の戦後の発展に果たした社会的役割を次の世代に語り継ぐとともに、平和の尊さを発信することが、市民を挙げて引き揚げ事業に携わってきた市の責務であると考える」と強調した。
同資料の中には、抑留された元日本兵がシベリアの収容所で工夫を凝らしこっそり書き残したものや、映画や歌謡曲で知られる「岸壁の母」のモデルとなった端野いせさんが息子への思いをつづったはがきなどが含まれている。
市は来年3月にユネスコへ推薦書を提出し、戦後70周年にあたる15年の登録を目指す。
来年2月8〜23日には東京タワーで「舞鶴から世界へ〜引き揚げの記憶展〜」(仮称)や「世界記憶遺産登録推進記念シンポジウム」(同)などを開催し、機運を盛り上げていく。
世界記憶遺産は92年に創設され、2年ごとに登録事業が行われている。現在、245件が認定されており、主なものには「アンネ・フランクの日記」「ベートーベンの手書きの楽譜」などがある。日本では登録が1件(福岡県田川市の炭鉱記録映画・日記など697点)、申請中が2件(国推薦の国宝「御堂関白記」「慶長遣欧使節関係資料」)ある。
会見に出席した多々見市長(中央)、山下館長(左から2人目)ら関係者