北九州市の百年庭園の宿「翠水」が国の「登録有形文化財」に登録される見通しとなった。
130年の歴史を持つ日本庭園に呼応して建てられた「百年庭園の宿『翠水(すいすい)』」の客室「菅生」、「企救」、「玄海」及び「渡り廊下」は、2021年11月19日に開催された文化審議会文化財分科会により「登録有形文化財(建造物)」として答申されましたことをお知らせします。今後準備を経て2022年2~3月頃登録予定となっております。
「百年庭園の宿 翠水(すいすい)」施設概要
【所在地】〒802-0082 福岡県北九州市小倉北区古船場町3番46号
【アクセス】JR小倉駅南出口から徒歩約8分 モノレール旦過(たんが)駅から徒歩約2分
西鉄バス市立医療センター前下車、徒歩約1分
北九州空港から、約40分、福岡空港から、約75分
【客室】総客室3室(収容人数 各8名)「菅生(すがお)」、「企救(きく)」、「玄海(げんかい)」
【翠水の客室】
【菅生】
随所に使われている一枚欅(けやき)が見所。広間踏込み床と脱衣場床板は一枚欅(けやき)。(天井は松板)軒が板軒になっているのは北九州でも珍しく、かつ杉の広材を使い、仕上がったときに人の目に触れる「化粧」部分は釘を見せない上質な造りに。
※日本庭園内で行われる「庭園挙式」の際の新婦控え室や両家お顔合わせなど、ご宴席の場でもご利用頂いております。
【菅生(すがお)】最大宿泊人数:8名様
15畳+7.5畳(110.5㎡)
【企救】
玄関から大広間に向けて天井の高さが徐々に高くなり、大広間の奥に広がる庭園が目に飛び込んでくるような高揚感を誘う空間づくりがされています。大広間の天井は、落ち天井と平天井で構成され、平天井は4.5畳の矢羽網代(あじろ)。池が見える窓の左側をのぞき込むと、岩から木が生えたような技術で作られた下屋柱を見ることもできます。また企救の間は、多くの斬新なデザインの建具も。
※3部屋の真ん中に位置し日本庭園を見渡せるお部屋からの眺めは絶景です。
【企救(きく)】最大宿泊人数:8名様15畳+7.5畳(79.5㎡)
【玄海】
床の間の端を端喰(はしばみ)で納める手の込んだ建築が見られます。また当初の建具がよく残り、掛け込み天井、落天井、平天井など多彩で遊び心がある天井も見所。当時としては目新しいデザインを取り入れた近現代数寄屋の先駆けといえる建物です。
※和モダンの造りは宿泊のご利用、一番人気のお部屋です。
【玄海(げんかい)】最大宿泊人数:8名様
10畳+7.5畳(74.6㎡)
【渡り廊下】
節目のある柱を立て、天井に竹を詰め打ちにするなどして野趣を表現しながらも、飾り気のない瀟洒な意匠です。数寄屋風の建物にいたる道すがらの風情として控えめながらも重要な役割を果たしています。
【渡り廊下】
【登録有形文化財(建造物)とは】
登録有形文化財(建造物)とは、50年を経過した歴史的建造物のうち、国土の歴史的景観に寄与しているもの等、一定の評価を得た建造物が登録されるものです。
約700坪の日本庭園に呼応して建てられた「百年庭園の宿 翠水」は、3棟それぞれに個性的な建築を施した数寄屋造りとなっており、小倉の街が都市化する中、この景色を未来に遺したいという想いを代々受け継いでまいりました。
【「百年庭園の宿 翠水」の建築的特徴と評価】
3棟それぞれに異なる庭との関係性を作りながら、全体に数寄屋建築らしい庭との一体感がつくりだされています。伝統的な数寄屋に適う素材や技法によりながら、近代的な工夫が随所にみられ、環境工学界における昭和初期の研究成果を反映していると見られます。
それぞれ様式の差異を演出しているのは設計者の日本の伝統建築への理解度の高さを示しており、近代的な設計手法による建築の中に、伝統的な設計手法に則った和室を共存させようとする積極的な試みが感じられます。「百年庭園の宿 翠水」の建築は伝統的な数寄屋の構成の中に高度で確かな数寄屋大工の技法を発揮しながら、近代的な設備や斬新な意匠を施すことにおける近代数寄屋の先進事例としても価値が高いものです。
【百年以上の歴史を持つ池泉回遊式日本庭園】
1889年、豊国炭鉱々主山本貴三郎氏(当時の貴族院議員)を施主として2,000坪の屋敷に1,000坪の庭園として完成。現在では700坪程度の広さに松の植え込みを主体とする池泉回遊式庭園として専門の庭師が手入れしています。
当館の日本庭園は、アメリカの日本庭園専門誌『数寄屋リビングマガジン/ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』が日本国内の日本庭園約1,000か所を対象に実施した「2020年日本庭園ランキング」にて第39位に選ばれました。
【数寄屋造りならではの斬新な天井】
客室に入り見上げると、数寄屋造り建築で代表的な網代天井をはじめ、個性あふれる様々なデザインの天井が広がります。自由さもありながら繊細な意匠の数々は、見ていると普段触れることのない数寄屋造りの魅力に引き込まれます。
企救の矢羽網代の平天井と障子の落天井
【柱と土壁が織りなす和の安らぎ】
客室内には杉丸太や竹の柱が随所に配しています。その建材をよく見ると、まっすぐではなく凸凹があるなどあえて奇木を使い、高度な技術の中にも日本ならでの温かみを感じることができます。この柱と一体になっている壁は土壁を採用し、柱の太さに合わせて薄く塗られています。
菅生の竹の柱と土壁
【日本の伝統美を体感できる建具】
建具にも職人の様々な技術、数寄屋造りの粋を感じる日本の伝統美があふれています。雪見障子を開けると座った目線の先には、四季折々の「百年庭園」があり、和の風情広がる空間で安らぎのひと時をお過ごしいただけます。
菅生の意匠性の高い建具
「百年庭園の宿 翠水」は、庭園の眺望に配慮し建物との協和を尊重する『庭屋一如』という、高い美意識をもって造られました。お部屋からは、松やつつじ、池を堪能でき、夜になると庭園に浮かぶ月を楽しむこともできます。