静岡県熱海市(齊藤栄市長)は11日、同市が展開する「温泉イノベーション」のうち、低温度差発電の実用化研究の一端を公開した。これは温泉の排熱を利用する新しい試みで、将来的には家庭レベルでの新たな発電システムの開発を目指している。
公開当日は、実験を推進している慶応大環境情報学部の武藤佳恭教授が、市内にある実験現場の日航亭大湯で実験モジュールによる発電を公開したあと、会場を起雲閣ギャラリーに移して低温度差発電の仕組みや今後の展開について、さまざまな角度からプレゼンテーションを行った。
冒頭、齊藤市長は温泉イノベーションの戦略的意味合いを述べ、市最大の資源である温泉を活用した新しい産業展開モデルの必要性を説いた。
今回公表された低温度差発電は「これまで捨てられていた温泉の熱を電力に置換するもの」(武藤教授)で、太陽光発電で欠かせない夜間用の蓄電設備は不用であり、シンプルで活用範囲も広く想定できるようだ。その特性を踏まえて齊藤市長は、「例えである」と前置きした上で「JR熱海駅前広場の足湯の照明などでデモンストレーションを行い、市のテーマである『環境にやさしい観光地』をアピールできたらいい」などと構想の一端を披露した。
市が進める温泉イノベーションは、市内のさまざまな資源を、行政、企業や団体、大学や研究機関との産学官連携、あるいは企業連携で効果的に活用し、地域の活性化を目指すもの。
資源の中核でもある温泉についても、温泉浴に利用するだけでなく、温泉を広角にとらえて、熱海ならではの多様な事業の創出に寄与させる狙いがある。実際面では、市から「熱海らしい資源とフィールド、ブランド力」を提供し、企業や大学は専門知識やノウハウを提供して共同で事業を展開、それぞれが成果を共有しながら、地域経済発展につなげるのを目的としている。
同事業では、すでに低温度差発電、温泉水飲料開発のプロジェクトが進行しているほか、ICT活用によるシティプロモーション推進、地産地消の推進と流通市場の再生などもそ上に上っている。地域のブランド力を相乗効果的に活用する事例である一方、ブランド力の低い地域では逆発想から新たな地域活性化の方途を示唆している点で注目される。
武藤・慶大教授(左)と齊藤・熱海市長