東電値上げに宿泊業界も反発


 東京電力の企業向け電気料金の値上げに対し、自治体や産業界から反発が強まっている。電力消費の多い旅館・ホテル業界からも値上げの延期と値上げ幅の見直しを求める動きも出てきている。批判の声を受け、東電は値上げ幅を圧縮する意向を示したが、4月からの値上げは予定通り行う考えだ。「値上げを権利と勘違いする感覚は電力の安定供給主体として適切でない」(枝野幸男経済産業相)と政府首脳も不快感を示すが、東電もかたくなな姿勢を崩さない。旅館・ホテルは値上げを見据えた対策を考えたほうが賢明なようだ。

 東電は1月中旬、自治体や企業など大口契約者向け電気料金を平均17%値上げすると発表した。値上げは企業のコスト増ともなるため、産業界からは一斉に反対意見が出た。「原材料が上がってもいきなり車を1〜2割値上げしない」(自動車メーカー)、「利益が吹き飛ぶどころか、赤字に転落する」(鉄鋼メーカー)と不満をあらわにする。

 山梨県笛吹市の石和温泉旅館協同組合(山下安広理事長=数奇屋造り旅館きこり)は1月末、商工会や農協など5団体ともに、値上げの延期と値上げ幅の見直しを求める要望書を東電山梨支店に提出した。山下理事長は「全く納得できない」と語気を強める。

 要望書は、(1)人件費など経費削減を行い、ひっ迫した状態で経営しているが、値上げ分を宿泊料金などの利用料に転嫁すれば客足が遠のく。さらに経営状態は悪くなり、雇用の悪化を招く(2)値上げは景気を冷え込ませ、製造業や旅館業に甚大な影響を与えることは必死で、地域経済の疲弊を招く恐れがある(3)数字(17%)の根拠の説明が十分でなく、値上げの議論の場を持たない一方的な知らせだけでは到底受け入れられない──など6項目で成っている。

 また、東電が社内サークル活動費や健康保険料の会社負担などを行っていることを挙げ、「値上げをするなら潤沢とされる人件費の圧縮や不要資産の売却を徹底するのが順序」と注文を付けた。

 「年間の電力使用量は2千万から3千万円。17%の値上げは大打撃」と言うのはホテル一井(群馬県草津温泉)の市川捷次社長。「値上げは絶対反対だが、避けられないとすれば節電を徹底するしかない」と気を引き締める。市川社長は県旅館ホテル生活衛生同業組合の理事長を務めるが「(東電に対し)旅組として値上げ反対の申し入れをすることも検討したい」と話す。

 磯部ガーデン(同磯部温泉)の櫻井丘子社長は仮に値上げが実施されると、電気料金が年間700万円程度増えると試算する。「経営上大きな負担。値上げについての説明は十分とは言えず東電の対応には問題がある」と言う。

 ただ、値上げ反対を叫ぶことには疑問も。「昨年の電力ショック(計画停電など)は一般、法人ともに電気の使い方を省みる契機となったが、今年に入りその機運が薄れていると感じる。エネルギー利用の考え方の転換を求められている状況は今年も変わらないはず。国民全体で危機的状況を乗り切るという意識が必要であり、であれば企業、一般とも、ある程度の負担増には協力する姿勢が必要では」と指摘する。

 東電は契約先に対し、計画的な節電をしてもらうための新たなメニューを提示している。業務用重負荷時節電契約「デイリープラン」だ。しかし「営業状態の実態に即していないプラン」との見方もあり、導入に二の足を踏む旅館・ホテルも少なくないようだ。

 
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