福島第1原発事故による風評被害の賠償問題で、全旅連東北ブロック協議会は7日、福島を除く東北5県の賠償基準について、東京電力と大筋合意したと発表した。東電側が昨年3月11日から11月末までとしていた賠償の対象期間を今年2月末までに延長。事故後に失った「逸失利益」の5割を賠償するとした。旅館・ホテル、行政など観光関係者は、新しい賠償基準に一定の評価をするコメントを寄せている。
東電は今年6月、東北5県の旅館ホテル組合に対し、事故が起きた昨年3月11日から、政府が計画的避難区域を定めた同年4月22日までを賠償期間とする賠償案を提案。8月には期間を昨年11月までに延長したが、スキーシーズンの利益減少が賠償されないなど、旅館・ホテル側から不満が出ていた。東電は旅館・ホテル側の要望を聞き、賠償期間をさらに延長した。
売上高に利益率、売上減少率などを乗じて算出した逸失利益のうち、5割を賠償する。全旅連東北ブロック協議会によると、5県の旅館ホテル組合員全体の賠償額は約53億9千万円。当初の基準による賠償額約3億9千万円から大幅に増額している。
国の原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)は8月27日、福島を除く東北5県と千葉県の観光業の風評被害について、損害の7割を賠償額として認める新たな基準を発表した。
今回の合意(5割)はADRの基準(7割)を下回る。ただ、ADRを利用した場合は組合員の個別交渉となり、賠償の実現に時間がかかるなどとして、「総合的に考えて(5割で)合意した」(全旅連東北ブロック協議会)という。
「包括的な合意はしたが、まだ積み残しは残っている」として、今後は宮城県ホテル旅館生活衛生同業組合がパイプ役となり、東電との交渉を進め、賠償金の請求作業に早急にかかりたいとしている。
■関係者のコメント
佐藤勘三郎・全旅連東北ブロック協議会会長、宮城県ホテル旅館生活衛生同業組合理事長
「東電との交渉も10数回にのぼり、議論は平行線をたどり、完全なこう着状態に陥った。一変したのは7月末。東電が風評被害を認める論調に移行し、今回の大筋合意にたどり着いた。今はとにかく賠償に一区切りつけ、早く観光事業者としてのポジションから仕事をしたい」
中村嘉宏・青森県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長
「昨年は青森県観光にとって100年に一度の宿泊業の飛躍の年となるはずだったが、風評被害から大幅な観光客減となった。大筋合意は廃業などで業界から撤退した仲間のことを思うと遅きに失した感は否めない。これを機に組合がさらに団結し、宿泊業本来のおもてなしと誘客にまい進したい」
吉村美栄子・山形県知事
「県としては、原発事故による風評被害は県内の広範囲に及んでおり、その影響は非常に大きいものがあると認識した上で、米沢市が風評被害の認定を受けた後の県旅館ホテル生活衛生同業組合と連携を図りながら、適切かつ迅速な賠償が行われるよう取り組んできたところです。このたび、県旅館ホテル生活衛生同業組合が長期にわたって精力的に折衝を行ってきた風評被害の損害賠償が、第一義の当事者である組合の方々の一定程度満足できる到達点に至ったとのことであり、また旅館・ホテル業のみならず観光業が対象となったということで、これまで県として主張、要望してきた点が一定程度含まれる内容となっておりますことは、ある程度評価できるものと考えております。今後は、東京電力から具体的な説明を求めるなど、引き続き着実な賠償に向け取り組んでまいります」
高坂幹・青森県観光国際戦略局観光企画課長
「合意に向けて努力された関係者の皆さまに敬意を表するとともに、これを契機に本県観光産業が1日も早く東日本大震災から復興し、東北新幹線全線開業効果を獲得できるよう、引き続き官民挙げて取り組んでいきます」
信田隆善・秋田県観光文化スポーツ部観光振興課政策監
「賠償合意は組合の粘り強い交渉の成果と評価しています。県も観光産業の様々な支援を行っていますが、震災後1年半が経過しても以前の状態に戻っていません。今回の結果をひとつの契機に、本県の観光復興を関係者と連携し、進めてまいります」
記者会見に臨む東北5県の旅館ホテル組合理事長(7日、仙台市・ホテルメトロポリタン仙台)