東京都市大学と国立科学博物館、ウラジオストクの南で原始的な魚竜化石を発見 最古級の海生爬虫類としての最大記録を更新

  • 2022年5月4日

 文化庁は4月27日、東京都市大学と国立科学博物館がウラジオストクの南で原始的な魚竜化石を発見し、最古級の海生爬虫類としての最大記録を更新したと発表した。

​ 東京都市大学(東京都世田谷区、学長:三木千壽)理工学部自然科学科の中島保寿准教授、国立科学博物館(東京都台東区、館長:篠田謙一)地学研究部の重田康成グループ長らの研究グループは、ウラジオストクの南に位置するルースキー島より、世界最古級の魚竜化石を発見・報告しました。
このたび、ロシア東部沿海州(プリモリエ)地域の前期三畳紀スパース世前期(約2億4900万年前)の地層から原始的な魚竜(魚鰭類)2個体の化石を発見し、そのうちのひとつが同時代の海生爬虫類として知られている限りの最大サイズである全長約5メートルに達していたことを明らかにしました。
魚竜類は中生代前期三畳紀(約2億5000万年前ごろ)に現れた、魚のような姿が特徴的な海の爬虫類です。三畳紀とその前の時代のペルム紀との境界(約2億5190万年前)には、生物史上最大の大量絶滅が起きたとされ、魚竜は新しい時代の生態系において食物連鎖の頂点に君臨していました。しかし魚竜の登場した時代の化石は世界的にも珍しく、魚竜の初期の進化は謎に包まれていました。
今回の発見により、魚竜は大量絶滅から約300万年という短期間のうちに遊泳生活に完全に適応し、現代の頂点捕食者であるシャチやホホジロザメに匹敵するサイズに達していたことが明らかになりました。
なお、この研究成果は2022年4月1日(金)、Nature Springer社の発行する学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

【研究のポイント】

  • ロシア東部沿海州地域の前期三畳紀スパース世前期(約2億4900万年前)の地層から、世界最古級となる原始的な魚竜(魚鰭類)化石2標本を発見しました。
  • 2標本のうちひとつは中型の魚竜の脊椎骨や肋骨で推定全長は約2.5メートル、もうひとつは大型の魚竜の上腕骨で、推定全長は約5メートルに達することから、魚竜は約2億5000万年前に登場してから、急激に大型化していったことがわかりました。
  • 今回発見された魚竜はいずれも骨密度が極めて低く、現代のクジラのように完全に水中生活に適応していたと考えられることから、古生代ペルム紀と中生代三畳紀の境界で起きた大量絶滅の後、魚竜類は急速に海洋環境に進出したことがわかりました。

 

  • 概要

極東ロシア沿海州(プリモリエ)地域の前期三畳紀スパース世前期(約2億4900万年前)の地層から原始的な魚竜(魚鰭類)2個体の化石を発見し、古生代末の大量絶滅の直後に現れた魚竜が、急速に海洋生活に適応し、巨大化していったことの証拠が得られました。この研究成果は、2022年4月1日(金)、Nature Springer社の発行する学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

魚竜(魚鰭類,Ichthyopterygia)は、前期三畳紀(約2億5000万年前ごろ)に登場した海の爬虫類です。魚竜は中期〜後期三畳紀にかけて大型化し、海の生態系では食物連鎖の頂点に立っていたと考えられています。魚竜はその名の通り魚によく似た体型をしていますが、肺呼吸をする爬虫類であり、海で生活する哺乳類であるイルカなどにも例えられます。魚竜は三畳紀の後のジュラ紀にも繁栄しましたが、白亜紀の中頃には衰退し、恐竜の大絶滅が起きた約6600万年前よりも前の約9400万年前に姿を消しました。

魚竜の特徴は、たくさんの歯の生えたくちばしと短い首、ヒレ状に変化した4つのあしと尾です。進化したジュラ紀以降の魚竜は、魚竜の代表である「イクチオサウルス」にみられるように、まるでマグロやカジキのような形をしていましたが、原始的な三畳紀の魚竜はトカゲと魚の中間のような細長いからだを左右に波打たせて海を泳いでいました。

魚竜の化石は世界中の中生代の地層から発見されていますが、前期三畳紀の原始的な魚竜は、日本や中国、北米、ヨーロッパなど北半球の限られた地域でしか発見されていません。極東ロシアからも前期三畳紀の魚竜の化石が発見されたことはありますが、論文内で短い報告がわずかにあるのみで、標本の所在も長らく不明となっています。

今回、国立科学博物館地学研究部・重田康成グループ長の調査隊が、アンモナイト等の化石研究のため極東ロシア沿海州を継続的に調査していた中、2006年・2017年の2回の調査でそれぞれ、前期三畳紀スパシアン期前期の地層であるジトコフ層下部(アンモナイト「ネオコルンビテス」産出層)から脊椎動物の骨の入ったノジュール(団塊状の堆積岩)を1つずつ採取し、海生爬虫類を専門とする中島准教授に詳細な分析を依頼しました。

研究依頼を受けた中島准教授らが骨化石のクリーニングを行った結果、調査隊の大学院生が発見した一つ目のノジュールには直径3センチメートルほどの脊椎骨(背骨)2点やその突起部分、肋骨などが含まれており、脊椎骨の前後の凹みが大きいことなどから、体長2.5メートルほどの原始的な魚竜(魚鰭類、標本番号NSM PV)と同定しました。また、重田グループ長が発見した二つ目のノジュールからは長さ約13 センチメートルの骨が得られました。中期三畳紀に生息した大型の原始的な魚竜である「キンボスポンディルス」の上腕骨(腕の骨)に類似していたことなどから、この骨は体長約5メートルの大型の原始的魚竜の上腕骨であると結論づけました(図1)。

一方、重田グループ長らによるアンモナイト化石の検討により、この地層は古生代ペルム紀末の大量絶滅から約300万年後の、約2億4900万年前(前期三畳紀スパース世前期)に堆積したことがわかっていました。魚竜は中生代三畳紀に現れ1億6000万年にわたって海で繁栄しましたが、今回の化石はその進化の歴史の中でも最初の約300万年以内というかなり初期に現れた魚竜ということになります。

また、中島准教授はCTスキャンや顕微鏡を使ってこれらの魚竜の骨の内部構造を調べました。その結果、爬虫類としては異例なほどに骨密度が低く、現在のクジラのように骨全体がスポンジ状の軽い組織でできていることがわかりました。このことは、今回発見された魚竜たちが陸での生活を離れ、遠洋で生活したり、深海に潜ったりして、海での生活に十分適応していたことを示しています(図2)。

以上のことは、大量絶滅の直後に現れた魚竜が、300万年以下という地質学的に見てごく短期間のうちに広い海での生活に完全に適応し、現代のホホジロザメやシャチに匹敵する体長5メートルまで大型化し(図3)、生態系ピラミッドの頂点に立ったことを意味し、壊滅状態だった生態系が遊泳生物を中心として急速に回復したことの証拠となります(図4)。
 

図1:極東ロシア沿海州ルースキー島で採集された2個体の原始的魚竜の骨化石。図1:極東ロシア沿海州ルースキー島で採集された2個体の原始的魚竜の骨化石。

左:全長約2.5メートルの原始的魚竜の脊椎骨2点、脊椎骨の棘突起、および肋骨。
右:全長約5メートルの原始的魚竜の上腕骨(長さ約13センチメートル)。

図2:ルースキー島で発見された大型魚竜の上腕骨の断面図。左はCTスキャンによる画像、右は破断面の一部。無数の空隙があり、スポンジ状の軽いつくりになっていることがわかる。図2:ルースキー島で発見された大型魚竜の上腕骨の断面図。左はCTスキャンによる画像、右は破断面の一部。無数の空隙があり、スポンジ状の軽いつくりになっていることがわかる。

 

 

図3:古生代末の大量絶滅後、時間の経過に伴って魚竜が巨大化した過程を示した図。今回発見された魚竜は赤で示している。図3:古生代末の大量絶滅後、時間の経過に伴って魚竜が巨大化した過程を示した図。今回発見された魚竜は赤で示している。

 

図4:前期三畳紀の海で泳ぐ魚竜とアンモナイトの想像図(新村龍也・絵)図4:前期三畳紀の海で泳ぐ魚竜とアンモナイトの想像図(新村龍也・絵)

 

  • 研究の背景

中生代(約2億5200万年前〜約6600万年前)は、陸上では巨大な恐竜(※1)が栄えた時代としてよく知られていますが、海中においても、魚竜、首長竜(※2)、モササウルス類(※3)などの大型爬虫類が繁栄していました。特に魚竜(魚鰭類、Ichthyopterygia)は、魚そっくりの体型で海での生活に適応し、前期三畳紀(約2億5200万年前〜約2億4700万年前)のどこかで登場した後、約1億6000万年もの間繁栄し続けました。

魚竜は三畳紀の間に現在のヒゲクジラ類(シロナガスクジラなど)に匹敵する大型化を遂げ、三畳紀後期紀から白亜紀にかけては首長竜と並んで、海洋生態系の頂点捕食者のひとつとして君臨していました。魚竜は恐竜などが大量絶滅した白亜紀末期(約6600万年前)よりも前の白亜紀中頃(約9400万年前)に絶滅し、現在は生存していません。

魚竜の起源については、近年中国などの前期三畳紀の地層から、原始的な魚竜や魚竜に近縁な爬虫類の化石が見つかったことで、徐々に理解が進みつつあります。しかしこれまで発見されている中で最古級(スパース世前期)の魚竜の化石は、全長1メートル以下の小さなものか、断片的すぎて全長がわからないものだけでした。したがってこれまでの知見では、スパース世前期の段階では、魚竜の大きさはまだ小さかったと考えられていました。

一方、スパース世中期以降の魚竜の化石としては、まれに5メートルを超えると思われる大きな個体の一部が発見されることもあり、前期三畳紀のうちに巨大な魚竜が生息していたと考える研究者もいました。しかしこれらの化石は断片的で魚竜かどうかの同定に異論があったり、化石が埋まっていた地層がはっきりしなかったり、といった理由から、初期の魚竜が巨大化したとする説に懐疑的な意見もありました。

今回発掘された化石は、アンモナイト(※4)層序年代学の専門家である重田グループ長らによって地層から直接採集されたため、生息年代をスパース世前期と断定できました。さらに2021年末、中期三畳紀の地層から超大型の魚竜「キンボスポンディルス・ヤンゴルム」(推定体長約17メートル)が報告され、その上腕骨が今回発見された化石の一つと酷似していたことから、今回の化石が大型の魚竜であることが決定的となりました。

さらに本研究では、骨の内部の構造を観察し、これらの原始的魚竜がどこまで水中生活に適応していたかの議論も行っています。四肢の骨の内部構造は、陸上動物では地面からの抗力に耐え、かつ軽量化をするために、緻密な壁で覆われた筒状になるのが一般的です。一方で、水中生活に適応したクジラやウミガメなどの動物は、陸上で体重を支える機会がほとんどないため、骨は浮力調節のためスポンジ状に軽くなっていくことが知られています。

今回発見されたロシアの原始的な魚竜はいずれも、骨の内部がスポンジ状で、とても軽いつくりになっていることがわかりました。このことは、これらの魚竜が陸上で体重を支える必要がなく、遠洋や深海でエサを取るなど、水中環境に大きく依存した生活を送っていることを示しています。

以上のことから、魚竜のなかまは三畳紀前期に現れてから、300万年未満という極めて短い期間で海中生活に完全に適応し、さらに、体長5メートルを超える大きな体を獲得して、当時の海洋生態系ピラミッドの頂点に君臨していたと結論付けられました。

 

  • 研究の社会的貢献および今後の展開

本研究の成果は、これまであまり注目されてこなかった極東ロシアの魚竜の化石が、中生代の海生爬虫類の初期進化を探る上で重要であることを国際的に知らしめるものであり、科学技術の発展した現代においても地道なフィールドワークやそれに関する教育が科学の発展にとって必要であることを再確認させるものです。

また本研究は、日本・ロシア・フランス・ドイツの研究者が共同で行ったプロジェクトであり、各々の専門分野も魚竜、骨組織、アンモナイト、分類学、層序学と様々です。大学や博物館といった研究機関の枠、専門分野・国境などの垣根を超えて、各々の専門知識と技術を持ち寄って完成した国際的・学際的研究活動の成果とも言えます。

今後の研究では、東北地方(宮城県石巻市・南三陸町・気仙沼市)で発見されている「ウタツサウルス」に代表される、日本の三畳紀の原始的な海生爬虫類化石にも焦点が当てられます。本研究は、日本をはじめとするアジア諸国を発信源として「海生爬虫類の初期進化」という世界的に注目度の高い研究テーマをさらに展開するきっかけになると期待されます。

  • 補足

中生代の空・海・陸の主な動物の生息期間、およびジトコフ層の年代についての概略図。中生代の空・海・陸の主な動物の生息期間、およびジトコフ層の年代についての概略図。

  • 用語解説

※1 恐竜:

三畳紀後期に現れた、陸上を中心に生息していた爬虫類の1グループ。中生代末の約6600万年前まで全世界の陸地に生息していた。一部の恐竜は鳥類へと進化して現代も生存している。今回発見された魚竜は、同じ大型の爬虫類ではあるが、恐竜には含まれない。

※2 首長竜:
三畳紀後期に現れた、長い首とオール状の四肢を持った爬虫類。中生代末の約6600万年前まで全世界の海に生息していた。首長竜の祖先となる鰭竜類というグループは、初期の魚竜と同時期の前期三畳紀に現れた。魚竜同様、恐竜ではない。

※3 モササウルス類:
中生代白亜紀中頃(約1億年前)に現れた海生爬虫類。現在のヘビやオオトカゲの近縁とされ、魚竜類とほぼ入れ替わるようにして繁栄した。全長12メートルを超えるものもいた。恐竜ではない。

※4 アンモナイト:
古生代デボン紀頃から中生代白亜紀末まで海に生息していた軟体動物の一グループで、タコやイカに近い頭足類のなかま。現在のオウムガイと同様に渦巻き状に巻いた殻を持ち、遊泳生活を行っていた。形態進化のスピードが早く、化石として全世界で大量に見つかるため、地層の年代を決定する「示準化石」としてよく用いられている。

  • 共同研究者

中島 保寿 (東京都市大学 理工学部 准教授)
重田 康成 (国立科学博物館 地学研究部 グループ長)
アレクサンドラ フサイヤ(パリ国立自然史博物館 教授)
ユーリ D.ザハロフ(ロシア科学アカデミー 研究員)
アレクサンダー ポポフ(ロシア科学アカデミー 研究員)
P. マーティン サンダー(ドイツ・ボン大学 教授)

【発表詳細】
Nakajima, Y., Shigeta, Y., Houssaye, A., Zakharov, Y. D., Popov, A. M., & Sander, P. M. (2022). Early Triassic ichthyopterygian fossils from the Russian Far East. Scientific Reports, 12(1), 1-15.
論文URL(オープンアクセス): https://www.nature.com/articles/s41598-022-09481-6
論文題目邦訳:「極東ロシアから発見された前期三畳紀の魚鰭類化石」

【国立科学博物館】
ホームページ:https://www.kahaku.go.jp/
筑波研究施設:https://www.kahaku.go.jp/institution/tsukuba/

     
 
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