日本国際観光学会(島川崇会長=東洋大学国際観光学部教授)は19日、第23回全国大会を桜美林大学新宿キャンパス(東京都新宿区)で開いた。120人が出席した。
島川会長は冒頭あいさつで、昨年末から始めた「テーマ別研究部会」について触れた。観光への知的財産権活用、宿泊関連、持続可能な戦跡観光、精神性の高い観光、福祉観光、おもてなし文化、航空マネジメント、オーバーツーリズム、観光交通の九つの研究部会が活動を開始したことを報告。観光経済新聞のウェブサイト「観光経済ドットコム(kankokeizai.com)」で、テーマ別研究部会それぞれの知見を著したコラム「観光学へのナビゲーター」の連載を6月から開始したと述べた。
研究発表会に先立つ特別講演「選ばれ続ける地域とは~自立・持続可能な観光リゾート経営~」では、観光カリスマでスイスのツェルマット在住の山田桂一郎氏が登壇した。
山田氏はスイスの強みについて「スイスは多民族、多文化、多言語で、人口約840万人の26州からなる連邦国家。町、州のそれぞれが持つ多様な地域性と個性が際立っている。さらに国として統一されたブランドイメージがあり、スイス国旗自体がアイコンになっている」と説明。「観光地、リゾート地がそれぞれのエリア・デスティネーションマネジメントとして明確なSTP戦略(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)を持ち、各地域が他地域と共存共栄を図っている。国としても『永世中立国、平和貢献、エコ・自然&クオリティ・オブ・ライフの高さ』など明確で象徴的なテーマ、コンセプトを持っている」と解説した。
山岳リゾート・ツェルマットに関しては「陸の孤島ともいえるへき地。極貧の時代を経て、農業と観光を基軸に『地域経営』に住民が主体的に取り組み、地域全体で収益力を向上させることに成功した」と述べた。「地域にとって重要なことは住民が幸せになり、まちが豊かになる『自立、持続』。地域に必要な産業の在り方を問い直し、自立・持続可能な社会を維持する経済基盤の構築が求められる」と強調した。
ツェルマットは、人口約5700人。ホテル120軒(6800ベッド)、ホリデーアパート1500軒(6500ベッド)で年間宿泊者数は200万泊。リピート率は70%に達するという。旅行者への情報提供は11カ国語対応の公式パンフレットとウェブサイトで行っている。
国別マーケティング戦略は取らず、「本格派スキーヤー&スノーボーダー」「エンジョイ派ハイカー」「アクティブファミリー」「マッターホルン・エクスカーション」「自然派ハイカー」「インターナショナル中小企業」の六つのテーマ・目的、価値別セグメントを設定し、ポジショニング。世界の超富裕層をメインターゲットに据え、基本的にリテンション(顧客維持)戦略を採っているという。
観光カリスマの特別講演