旅館業法第5条、旅館の7割近くが改正望む 観光経済新聞社アンケート調査


従業員らの感染懸念 第6条も「改正」多数

 観光経済新聞社はこのほど、見直しが議論される旅館業法に関して全国の主要旅館にアンケート調査を行った。宿泊拒否制限を規定した第5条は66%が「改正が必要」と回答。「必要なし」は17%だった。コロナ禍の中、「熱があるお客さまから宿泊を強要された」など、宿での感染拡大が懸念される事例も多くの旅館が挙げた。宿泊者名簿を規定した第6条も多くが改正に賛成した。

 調査は今月2~8日、全国の主な旅館200軒にファクスで実施。53軒から回答を得た。

 旅館業法第5条は、「営業者は宿泊しようとする人が、伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるときなどを除き、宿泊を拒んではならない」とし、単に熱やせきがあるだけでは宿泊を拒否できない。この条項について、改正が必要と「思う」「思わない」「分からない」「その他」の4択で意見を求めた。

 最も多かったのが「思う」で、35軒が回答。回答率は66%と、7割に近かった。

 「思わない」は9軒で、回答率は17%。ほかに、「分からない」が7軒(回答率13%)、「その他」が2軒(同4%)だった。

 回答理由を自由記述式で答えてもらったところ、改正に賛成の意見は「昨今のコロナ禍では、発熱やせきがその症状をされていることは明白であり、他のお客さまや従業員を感染から守ることが責務であると思うから」「もし、かかっていて、館内で集団感染が発生すれば致命的な状況になる。従って、疑わしい場合は全て拒否できるように改正した方が良いと思う」と、顧客と従業員、自身の事業を守る観点からの意見が多くを占めた。

 「自由主義経済の中で、伝染病、指定暴力団等以外、宿泊拒否ができないこと自体が異常」「契約の自由が認められないのはおかしい。高熱、不潔など自館および他者に迷惑がかかる場合に拒否できる権利を下さい」と、宿の権限に言及する意見も目立った。

 一方、反対の意見は「せっかく時間をかけて現地までお越しくださったお客さまが、他に行く場所がなく、行き倒れてしまう恐れがあるため」など、宿泊客を思いやる意見が多かった。

 「チェックイン時など、宿の現場でコロナの疑いがある人の対応で困ったことがあるか」を、具体的事例も含めて聞いた。

 何らかの困った事例があったと回答した宿は18軒。回答率34%と、およそ3分の1が対応への苦慮を経験している。

 「熱があるお客さまから電話があり、宿泊を強要された。その後、コロナ感染が判明し、キャンセルに」「熱があって、外が暑かったからだと言って半ば強引に入館された。コロナ疑いではないが、ワクチンを2回接種したとのことで、マスクや感染予防対策に協力をしない宿泊客が存在した」「家族で来館し、高校生が発熱も、強硬に利用をしていた」と、感染拡大が懸念されるケースが散見される(別項)

 アンケートでは宿泊者名簿を規定した旅館業法第6条についても聞いた。

 第6条では、営業者は宿泊者の氏名、住所、職業などを記載する名簿を用意する必要がある。ただ、職業は「実質的な意味がない」と、不要の声がある。この条項について、改正が必要と「思う」「思わない」「分からない」「その他」の4択で意見を聞いた。

 「思う」とした回答が28軒、回答率53%と最も多かった。以下、「思わない」14軒(回答率26%)、「分からない」10軒(同19%)、「その他」1軒(同2%)。

 フリーのコメントとして、「うその記載をする人がかなりいる」「ほとんど記載していただけない場合が多い」と、職業欄の不要を指摘する一方、「以前、『医師』とご記入くださったお客さまに助けていただいたことがあり、深く感謝しているため」「職業を含め、今の項目を書かせることは『反社会的勢力』には『無言の圧力』になるから」と、現状維持を支持する声もあった。

 旅館業法を巡っては、厚生労働省が「見直しに係る検討会」(座長=玉井和博・立教大学観光研究所特任研究員)を設置。これまで8月27日、今月2日と2回にわたり有識者のメンバーらが意見を交換している。

コロナの疑いある客へのその他の対応事例(抜粋)

 「体温チェックで38度あり、そのままご宿泊されることになったが、実際全てをお部屋の中で完結するのは難しく、当日にあわてて食事体制ほか、やり直したり、お帰りになった後のお部屋の掃除等もしていいのか悪いのか分からず、3日ほど使えなかったり、後始末が大変だった」

 「せき、微熱のお客さまがいらっしゃったことがあり、お泊まりいただいたことがあるが、お客さまにコロナ感染の確認をすることもなかなか難しく、スタッフ、当お客さま、および他のお客さまにも不快な思いをさせてしまったことがあった」

 「直近2週間でコロナの疑いまたはコロナ陽性者との接点があったか?の問いに、『はい』に丸を付けた方がいて、確認したら医師だった。PCRもしているとのことで宿泊いただいたが、判断に迷う。基本的には保健所や当館の指示に従ってくれていると思うが、一部では怒ったり」

 「38度、39度近く夜中に発熱したとの連絡を受け、コロナ感染を心配しながら保健所、病院へ連絡を入れ、搬送をお願いした」

 「熱が37・5度前後の体調不良時のケース。病院は解熱剤の投与で原因が不明なまま、お客さまをホテルに返すので、その時点での対応が難しく、困った。明確な答えもなく、事例もなく、今後に大きな課題である」

 「予約を直前キャンセルする際に、コロナウイルス罹患(りかん)の話をされる方が増えてきた。そのうち何組かは明らかに違うと思うのだが、コロナを理由にされるとキャンセル料の話をするのが難しくなる」

 
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