日本旅館協会は2月9日、旅館の適正価格に関するセミナーを東京都内で実施した。同協会の未来ビジョン委員会が会員を対象に行ったアンケートの結果や、同日の同協会4委員長会談などから、旅館の適正価格についての現状やあるべき姿が見えてきた。
未来ビジョン委員会が会員約100軒を対象に実施したアンケートによると、88%が2019年以降に値上げしたと回答した。価格引き上げの理由としては、「原材料費の値上げ」「人件費の高騰」など環境要因的に対応が迫られる項目が上位(いずれも総回答数の半分以上)を占める一方、「サービス内容を充実させるため」「備品整備等を実施したため」など、ソフトやハード面の改修を要因に挙げた会員も2、3割ほどいた。
価格を引き上げたことで得られた効果(成功事例)としては「粗利率の向上により低稼働でも利益確保が可能になり、清掃等のコスト削減も達成した」のような「低稼働・高収益化」を挙げる声が多かったほか、「労働条件の改善」「少人数でのオペレーションに」「社員のモチベーションアップ」「顧客満足度の向上」「客層の良化」など、館内外への人的な側面での好影響を挙げる会員も多かった。
他方、価格を引き上げたことによる失敗例としては「口コミ評価が厳しくなる」「口コミ評価の低下」を挙げる会員が多く、「リピーター離れやなじみの顧客離れにつながった」と回答する会員も見られた。
今後3年間での値上げについては、92%が「予定あり」と回答し、引き上げ幅は「6~10%程度」が41%で最多で、以下「1~5%」(22%)、「11~15%」(13%)と続いた。
同委員会は「料金の値上げを行った施設が約9割に達した。うまく機能しなかったとの回答も多数見られたが、『利益を確保できた』との声が最多回答だったことからも、宿泊料金の値上げは単価アップ、高収益化に確実につながっている」と分析。「今後はいかに料金引き上げを果たしていけるかが重要だ」との展望を示した。
価格の現状や課題 各委員の言葉から
同日に行われた「適正価格と高付加価値化」をテーマとした4委員長会談から、各委員長の宿泊料金の適正価格に関連する発言や考え方を以下にまとめる。
政策委員会・永山久徳氏(岡山県・鷲羽山下電ホテル) (自館の近時について)光熱費や食材費の高騰を受け、前年同月比で2割以上価格に転化している。人手不足も引き続き厳しく、稼働8割で固定費をまかなおうとすると2割ほど価格を上げなければならなくなる。今後の人材確保や既存の従業員の昇給なども見据えると、当館のような大規模施設の場合は価格を5割程度引き上げないと健全な経営状態にならないと感じる。年末などは価格引き上げに伴う予約スピードの鈍化にやきもきしたが、8割稼働でギリギリ維持している。
労務委員会・山口敦史氏(山形県・ほほえみの宿 滝の湯) (価格の設定について)当館は価格を引き上げたというより、グループ向けの安いプランのような、低価格帯のサービスを止めた。稼働が戻りつつあることも受け、以前は1万3千円ほどだった平均単価が約2万円まで上がっている。稼働がさほど上がらなくても平常利益が出る現状を踏まえると、私の中では適正価格になっているかなと思う。一番高評価だったのが2万円前後だったので、当館はこの価格帯を得意としていると思い、そこに近づけることを目指した。
EC戦略・デジタル化推進委員長・西村総一郎氏(兵庫県・西村屋本館) (海外のホテルとの価格感覚について)フランスでも人材不足を補うために価格に転化していかなければという声が多かった。やはり日本の価格は全体的に安く、国際水準まで持っていく必要がある。(自館について)価格自体は適正だと感じているが、一方で高騰している光熱費をカバーしきれていないと感じている。今後は従業員に支払う給料などもしっかり考慮しながら価格を設定していくような視点も必要だと感じている。
未来ビジョン委員会・相原昌一郎氏(静岡県・新井旅館) (価格改定に関する計画に関して)自館は、政府が掲げる「インフレターゲット2%」に合わせ、毎年絶対的に2%は価格を上げると決めている。しかし他の皆さんと同様に、現状この上げ幅では諸経費の高騰に対応できないので、今春は12・5%の大幅な引き上げを予定している。当館全31室を、間取りや設備、景観などで分類すると16ほどに分けられる。これを館全体のADR等で全体的に俯瞰してしまうと各客室の売り方に支障が出てしまう。16を31まで細分化し、客室ごとのADRやRevPARを算出し、それらをもとに各客室の価格を設定している。
4委員長会談の様子。左から永山委員長、山口委員長、西村委員