新時代の宿泊業界と組織運営 全旅連新会長 井上善博氏に聞く


全旅連新会長 井上善博氏

「金融対策」「人材育成」「観光立国」5つの委員会で議論進める

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)は6月13日に通常総会、翌14日に全国大会を愛媛県(総会=今治市・今治国際ホテル、大会=松山市・愛媛県県民文化会館)で開催する。総会では井上善博・福岡県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長(原鶴温泉・ほどあいの宿六峰舘)が多田計介氏(石川県和倉温泉・ゆけむりの宿美湾荘)の後を受けて会長に就任し、翌日の全国大会で約千人の組合員を前に所信を述べる予定だ。正式就任を前に、井上次期会長に現在の心境、今後の組織運営を語ってもらった。(東京の全国旅館会館で。聞き手=本社・森田淳)

 

 ――会長への立候補の動機と正式就任前の現在の心境を。

 コロナ禍という今まで経験のないことが起きた。コロナ禍からの再生に向けて、今まで業界を支えてこられた先輩方の思いを胸に、われわれ次世代の人間がこれから頑張っていかねばという使命感を強く感じていた。

 コロナで多くの同業者が苦境にあえいだ。特に金融問題。以前からの借り入れがある中で、さまざまな支援があるにせよ、運転資金をさらに借りている。事業再構築補助金、高付加価値化補助金と、有難いことにさまざまな補助の制度も築かれたが、全額を国が補助するわけではなく、そこでも借り入れが発生している。

 コロナが2類相当から5類に移行し、水際対策が緩和されてインバウンドも戻ってきた。われわれがしっかりと利益を出して、今までの借り入れを返していくという状況に徐々に戻ってきた。

 しかし、地域によって、さらには同じ地域の中でも施設によって濃淡がある。うまくいっているところがあれば、まだまだお客さまが戻っていないところがあるのも事実だ。そのようなところがどうすれば活路を見いだせるのか。新しい委員会で検討し、組合員の皆さまにお示しできればと思う。

 ――新体制の委員会について、構想は。

 まずは「観光立国推進委員会」。観光は地方創生の切り札だ。観光をわが国の基幹産業にしていかねばならない。そしてわれわれ旅館・ホテル業がその中核をなす。その自覚と責任とプライドを持って取り組む。観光立国推進へ、関係省庁に要望することはもとより、さまざまな政策提言や課題解決に向けた提案の調査研究を行う。

 二つ目は「情報・新価値創造委員会」。アナログの紙媒体とともに、電子媒体による情報発信を組合員の皆さまへ一様に行えるようにすることもわれわれのミッションと考えている。情報伝達の迅速化を図るとともに、国の政策立案時のエビデンス支援を積極的に行う仕組みづくりに取り組む。

 三つ目は「金融対策・経営改善委員会」。冒頭、申し上げたように、厳しい経営環境にある組合員に対し、再生のヒントをお示しする。将来につながる経営力向上や生産性向上、事業承継についても調査研究したい。

 四つ目は「次世代人材育成委員会」。次世代の育成は時代を問わず重要なテーマだが、今は人口が減り、どの業界も深刻な人手不足になっている。これからわれわれが反転攻勢をしていく中で、日本人、外国人を問わず、「働きたい」と思ってもらえるような業界にしなければならない。細かい法律の問題も含めて、人材育成、人手不足対策、働き方改革などの調査研究や情報提供を行う。

 最後は「厚生・バリアフリー化促進委員会」。「人に優しい宿」の普及を目指してきた「シルバースター部会」をより進化させ、従来進めてきた「人に優しい地域の宿づくり賞」や施設のバリアフリー化に加え、ユニバーサルデザインの研究、バリアフリー旅行需要の考察、世界的潮流となっている脱炭素社会に向けた調査研究を進める。

 このほか会長直属の組織として、従来の「ポストコロナ調査研究委員会」を発展的に解消、「災害対策室」と統合して自然災害や感染症発生時の対応を行う「危機管理室」を設ける。

 ――喫緊の課題はやはり金融問題か。

 2月の衆議院予算委員会の公聴会で、この問題について公述人として意見を述べさせていただいた。国の金融支援について延長されたものもあるが、「徳政令」は難しいにしても、引き続き要望をしていかねばならないと思っている。

 その前提として、われわれ宿泊業界が社会的に役に立つ業界であると、しっかりと訴える必要がある。多田会長(多田計介・全旅連会長)が力を入れて取り組まれた都道府県の行政と旅館ホテル組合との災害協定締結がその一つだ。地震や風水害など大きな自然災害の際、われわれ旅館・ホテルは協定に基づき要配慮者を中心に多くの被災者を受け入れてきた。われわれは商売を行う事業者だが、社会的に役に立つという側面もしっかりと訴えていかねばならない。

 一つ残念なのが、助成金の不正受給や不適切な衛生管理の問題が各地で起きていることだ。コンプライアンスの問題は、各県で講習会を開いたりしているが、今後も業界として襟を正していかねばならない。

 ――人手不足も業界として喫緊の課題だ。

 新たな「観光立国推進基本計画」が策定されるなど、国が観光立国推進に向けて再始動した。宿泊者数や旅行消費額について目標数値も設定されている。政治家、官僚とともに、われわれ業界団体も目標達成に向けて頑張る。

 ただ、十分な受け入れ態勢であるかどうか。理想と現実に乖離(かいり)がある。そこをどう埋めていくか。

 すぐに解決できる問題ではないだろう。よくいわれる賃金の問題とか、われわれの仕事に魅力を感じられるかどうか。日本人でも外国人でも同じだと思う。働く人に来てもらうために、業界としてどのような取り組みをするか。青年部が「旅館甲子園」でその部分の盛り上げをしている。業界全体で取り組んでいければいい。

 ――情報伝達について。デジタル化など、組織として立ち遅れているとの認識か。

 組合員の皆さまにどう情報を伝えるか。全旅連は都道府県旅館ホテル組合の集合体で、全旅連からの情報は、まず都道府県組合の事務方に伝わることになる。その事務方から組合員の皆さまに情報をいち早く流していただくことを考えていかねばならない。

 今、「まんすりー」という機関紙をほぼ毎月発行しているが、紙の媒体なので1カ月前の古い情報を読むようなことになっている。ただ、今はスマートフォンやSNSなどの便利なツールがある。会議など、会場の様子を写真に撮って、内容を簡潔にまとめてすぐに発信することもできるわけだ。事務方とも話をして、できることから取り組んでいきたい。

 ――「観光立国」の推進については。

 コロナで人流が止まり、われわれ宿泊業界ほか、旅行業、キャリアなど、観光に関わる業界が大変苦しんだ。その中で国はGo Toトラベルキャンペーンや全国旅行支援など、われわれの支援のために予算を付けていただいた。事業再構築補助金、高付加価値化補助金も多くの予算が付いた。国が「観光業界よ、頑張りなさい」と言っているのだ。
では、これから先、われわれはどうするのだ、ということを委員会でまず、議論したい。

 ――各委員会の委員長、委員は。

 まだ言える段階ではないが、いろいろ考えている。

 都道府県組合の理事長をしていると、私もそうなのだが、地元でさまざまな会合がある。そこで全力、さらに全国組織でも全力というのはなかなか難しい。

 都道府県組合の理事長、各ブロックで互選で選ばれる全旅連副会長との関係を大事にすることはもちろんだが、各委員会の委員長には実働部隊として特に頑張ってもらいたい。各委員会もバラバラではなく、委員長らが一堂に集まり、会議が終わった後、みんなで食事をするとか、そのような関係性を大事にして、意思の疎通を図っていきたい。

 ほかにも旅館業法、風営法、固定資産税、入湯税と、業界を取り巻くさまざまな問題がある。全旅連だけでなく、日本旅館協会、全日本ホテル連盟、日本ホテル協会の、いわゆる宿泊4団体で歩調を合わせて、これら問題の解決を図るとともに、組合員の皆さまが組織に入ってよかった、と思っていただける活動をしたい。

 ――諸問題の解決には政治との関わりが欠かせない。業界の中から政治の場に代表を送る必要性については。

 思いは当然ある。誰が、ということについては、これからいろいろと活動する中で、見いだしていければと思う。業界の中でそのような機運が高まっていけば、人選が必要になるかもしれない。

 ――青年部、女性経営者の会(JKK)との連携について。

 私は今年の10月で55歳。青年部を卒業して10年ぐらいがたち、今まで業界を支えてきた先輩方と、現役の青年部員の中間の世代になる。世代的にも青年部とは連携がしやすいと考えている。

 青年部は、私の上の世代は3千人ぐらいのメンバーがいたが、今は千人前後と聞いている。ただ、ある意味少数精鋭化して、陳情など、親会をしのぐほどの活動をしている。

 親会としても青年部の若い力を借りなければいけないし、自分も業界内ではまだまだ若いといわれる世代だが、しっかりと連携をしなければならないと考えている。

 JKKは、女性ならではの視点で業界のことを考え、業界全体とそれぞれの宿の発展のために取り組まれている。新会長の高橋美江さんともいろいろ話をしながら、共に活動をしていきたい。

 新たに発足する委員会には、青年部のメンバーは当然、加わっていただきたいし、JKKのメンバーもご無理がなければぜひ参加をしていただきたい。

 ――青年部の新しい部長、塚島英太さんも九州出身。

 塚島さんは、私が青年部長のときに全旅連青年部に初出向したそうだ。前の青年部長の星永重さんもそう。今回、たまたま同じ九州ということになったが、何かの縁があるようだ。

 ――プライベートについて。休日の過ごし方、趣味などは。

 気晴らしにドライブに行くこと。カブトムシやクワガタも好きで、いわゆる大人の趣味として、外国から輸入して育てたりしている。子供連れのお客さまが多い夏休みは宿のロビーで展示したりしている。

 ――会長に立候補するに当たり、家族の反応は。

 母からはコロナ禍でもあり心配されたが、嫁からは特に何も言われなかった。嫁はJKKの前会長の小林佳子さんが同じ福岡県出身だったこともあり、JKKの活動にもかねて参加していたため、その辺りの理解はあるようだ。

 ――6月14日の全国大会開催に向けて、組合員にメッセージを。

 業界がいい方向に進むように、そして観光立国を実現し、われわれが国の基幹産業になるべく、まだまだ若輩者で微力ではあるが努力していきたい。皆さまのご協力をよろしくお願いします。

 

全旅連新会長 井上善博氏

 

 
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