
東武トップツアーズ会長(元観光庁長官) 久保成人氏
御宿場印の魅力と可能性、信金の地域振興への期待
日光街道と東海道を中心に展開される御宿場印。各宿場町の魅力を発信するこの試みは、各地の観光誘客の側面からも大きな期待を集めている。日光街道沿線に路線を持つ東武鉄道のグループ会社・東武トップツアーズの現代表取締役会長執行役員で元観光庁長官の久保成人氏に、日光街道を中心に宿場町の魅力と今後の可能性、信金の地域振興への期待などを聞いた【聞き手・内田誉紀】。
ーーまず、日光街道について、その魅力を…。
久保 実は、8月はじめに日光に行く機会があって、実際に回ってきたんです、日光街道の宿場町を。
ーー本当ですか⁉
久保 はい。今回の話を聞いて、自分でも興味がわいて行ってみようと。
御宿場印帳を携えて、最初は日本橋、次が北千住(千住宿)と御宿場印をもらい…肝心の最後の日光で御宿場印をもらい忘れてしまって(笑い)。
ーー日光を再訪して御宿場印をもらう必要がありますね(笑い)。
久保 全てを回ったわけではないのですが、訪れた一つが小山宿。徳川家康が上杉景勝討伐のために小山に本陣を置いた時、石田三成挙兵の報が入り、皆に「上杉を討つべきか、石田を討つべきか」と質した。この「小山評定」の場所も、御宿場印帳をきっかけに現地に赴き、見物することができた。
ーー普段行かないような場所に回遊させるための方法としては効果的ですね。
久保 すごく良い企画だと思う。「御宿場印を集めるために現地に行く」というリアルな体験価値がある。
ーーコンプリートしたくなりますよね。
久保 日光街道は、日光東照宮に行くための街道で、目的・ゴールがはっきりしている点が特徴だ。つまり「何のための街道なのか」が分かりやすいので、街道ストーリーを作りやすく、観光振興にもつながると思う。
ーー各宿場町ならではの観光スポットもありますね。
久保 日光街道の宿場町は、平地で比較的歩きやすいのも特徴。例えば宇都宮の、日光街道と奥州街道の分かれ道の街道筋に、醤油醸造業や肥料商を営んでいた旧篠原家住宅という国指定重要文化財があるんです。まさに「ちゃんと寄り道をして見聞を広める」という体験だった。日光街道の各宿場町は、東京に近いので都心の人は何度でも行こうと思えば行ける。
ーー御宿場印が街道沿線の観光的な魅力発信に果たせる役割は大きいのでは。
久保 観光的にちょっと弱い自治体も、「街道の宿場町」という形で連携できれば、観光的な発信ができる。観光的な魅力付けがされていない地域であっても、日光街道なり奥州街道の宿場町だということにより改めて再発見される可能性があると思います。それは他の街道にも当てはまることです。
ーー自治体が単独ではなく、近隣自治体と連携することが重要である、と。
久保 東武トップツアーズとしても、昨年12月から今年の2月はじめまで、日光街道をテーマに東武鉄道で草加・越谷・粕壁・杉戸・幸手・栗橋の各宿を巡る「日光街道スマホスタンプラリー」を実施しました。これはモデル事業だけど、継続的にこういうことを地域自治体なり、観光関係者が連携してやれれば良いなと思います。
―ー元の人が地元の良さを再発見するきっかけにもなりますね。今回再認識された各地の魅力も多かったのでは。
久保 ありますよ。日光杉並木を歩くとそれ以外のエリアとは異なって明らかに温度差があり、涼しくて気持ちよい。歴史に加え「自然」も魅力の一つ。あと「食」だけど…宇都宮のギョーザは江戸時代にはまだないからなあ(笑い)。草加せんべいも大正天皇に献上されて、街道の名物になりましたね。日光だと輪王寺があるから、精進料理でタンパク質補充のために湯波が多く作られたとか。歴史文化、自然、食がそろえば、各地がもっと素敵な場所になっていくのでは。
ーー宿場町を拠点に人流が生まれますね。
久保 単なる観光振興から地域振興へと広がり、他の産業にも良い効果が波及していってほしい。
ーー御宿場印は各地の信用金庫が主体となって実施しています。信金と観光業、旅行会社や旅館・ホテルとの関係は深く、親和性が高い。
久保 当社の各支店は各地の信金さんの力を大いにお借りしているし、信金さんが組み立てる旅行でも営業が大変お世話になっている。
各地で信金さんが地元の企業と協力して地域の発展に貢献し、観光振興へのさまざまな取り組みに尽力されていることも知っている。地域振興にもつながる今回のような企画にも敬意を表したい。
御宿場印を活かした地域の魅力発信の企画が各地で始まっている。日光街道の日本橋、浅草、千住と御宿場印をたどりながら講師とともに歴史を振り返るカルチャー教室の講座。東海道の静岡県にある浜名湖を巡るウォーキングやサイクリング企画では記念として地元の御宿場印をプレゼントする。静岡・三島宿では御宿場印購入者に観光名所の割引クーポンを発行。また、四国八十八カ所巡りのように、日本橋から京都・三条大橋までの492kmを何十回にも分けてガイドとともに泊まり歩くツアーを企画する旅行会社も。
△日本橋の御宿場印(右から甲州街道、日光街道、東海道のもの)
▽国道の起点を示す日本国道路元標(複製)。日本橋を起点に各街道が始まり、各宿場町でストーリーが形成されていく
東武トップツアーズ会長(元観光庁長官) 久保成人氏 左手に持っているのが「御宿場印帳」