「恩湯」「川床テラス」など外歩きが楽しく
長門湯本温泉(山口県長門市)は、約600年の歴史を持つ山口県で最古の温泉地だ。近年は街全体の再整備が進み、地域のシンボル「立ち寄り湯 恩湯(おんとう)」や「川床テラス」「飛び石」の完成、街中を照らす幻想的なライトアップの演出、次々と進出する新しい宿泊施設や飲食店、商店と、「歩いて楽しい温泉地」に変貌している。
地域の立ち寄り湯として長年営業していた恩湯は、施設の老朽化などを理由に2017年5月にいったん閉館したが、2020年3月に装いも新たにオープンした。日本伝統の様式美を感じさせる平屋造りと、木材をふんだんに使った素朴なたたずまいが印象的だ。
建物が源泉の真上に建ち、入浴時に岩盤から湧き出る湯を見られるのは全国でも珍しい。この岩盤湧出に加え、浴槽の底に湧く足元湧出泉と呼ばれる源泉もあり、入浴客は空気に触れないこれら新鮮な湯を思う存分味わえる。
恩湯の岩盤から流れる源泉。「神授の湯」と崇められている。源泉は浴槽の底にもある
泉質はアルカリ性単純温泉(pH9.62)で、化粧水のような肌に優しい感覚。湯船は深さ1メートルと、一般的な公衆浴場(50~60センチ)に比べて深い。全身にしっかりと水圧がかかることで体内の血行が促進され、むくみや冷え性の解消にもなるといわれる。
恩湯は応永34(1427)年、曹洞宗大寧寺3代住職の定庵禅師が長門国一宮の住吉大明神からのお告げによって発見したとされるもので、“神授の湯”ともいわれる。恩湯そばの高台には、この住吉大明神を祭る住吉神社があり、温泉街を見守るように静かにたたずんでいる。
恩湯は小山薫堂氏(作家)が代表理事を務める湯道文化振興会主催の「湯道文化賞」で、第2回(2023年)の最高賞にも選ばれている。入浴に関する文化的な取り組みで、特に輝かしい功績を残した個人・団体に与えられるもの。前年は湯布院(大分県)の温泉文化を築いた中谷健太郎、溝口薫平両氏が受賞している名誉ある賞だ。
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温泉街を流れる音信川(おとずれがわ)と大寧寺川(たいねいじがわ)には、山口県で唯一という川床テラスを整備した。穏やかな川に面したとっておきの空間で、施設を管理する事業者が食事など季節に応じたサービスを提供する。毎年3月末には安全祈願祭「川床開き」を開催する。
音信川、大寧寺川に点在する川床テラス
地域のシンボル音信川にもっと親しんでもらおうと、対岸に渡れる飛び石と沈下橋を5本、川岸にアクセスできる階段状の雁木広場を整備。大人から子供まで、川遊びを気軽に楽しむことができる。
駐車場から温泉街の中心、音信川までを階段と坂道でつなぐ「竹林の階段」。数百本の竹林が並ぶ雄大な景観が訪れた人を魅了する。夜間にはライトアップされる。階段の両脇に置かれたあんどんとともに、風情ある空間をつくり出している。夜のライトアップは音信川沿いや88段の「紅葉の階段」など、温泉街の至るところで行っている。
ライトアップされた竹林の階段 c SHIMOMURA YASUNORI
季節を彩るイベントも。同温泉の冬の風物詩「音信川うたあかり」はコロナ禍でのスタート後、年々認知度が高まり、今では山口県を代表する灯(あか)りのイベントとしてすっかり定着した。
灯りのイベント「音信川うたあかり」
長門市出身の童謡詩人、金子みすゞの詩のナレーションに合わせた光の演出。子どもたちが制作した数千個の「あかりのうつわ」など、寒い冬でも心が温まる特別な風景を楽しめる。今年度は来年1月31日から3月9日までの開催。
これらの見どころ以外にも、温泉街には新しい宿泊施設やレストラン、カフェ、土産店が次々と進出。外歩きが楽しい「オソト天国」へと変貌を遂げている。
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長門湯本温泉の最新情報は、同温泉の公式ホームページに掲載している。同温泉のそぞろ歩き、イベントや、「食べる・買う・泊まる」などの情報が満載。
URLは「https://yumotoonsen.com」。QRコードからもアクセスできる。