施設のリノベーション促進
滞在型観光へ環境整備も課題
政府の観光戦略実行推進会議(議長・菅義偉官房長官)の第37回会合が6月19日、首相官邸で開かれた。新型コロナウイルスの流行を踏まえ、「日本の観光の再生」をテーマに観光事業者からのヒアリングと意見交換が行われた。厳しい経営環境にある旅館・ホテルの再生に関しては、個性やデザイン性を重視した施設のリノベーションへの支援、地域の暮らしや文化を体験できる滞在型観光の確立など、新たな施策の必要性が提言された。
◆個性とがらせる
有識者のヒアリングでは、ホテルの経営、プロデュースを手掛けるL&Gグローバルビジネス代表取締役の龍崎翔子氏が「個性をとがらせて宿泊施設を再生する」と題し、旅館をリノベーションしたHOTEL KUMOI(北海道・層雲峡温泉)の事例などを紹介。再生の秘訣として(1)上質なデザイン(2)話題性のあるサービス(3)SNSでの発信―など、個性の表現、差別化の重要性を指摘した。
「没個性化」が招く現状を「負のスパイラル」として、没個性化(差別化ノウハウの欠如)→低価格(供給増加、競争激化)→低収益(市場全体の値崩れ)→低投資(投資体力の低下、投資リテラシーの欠如)→OTA依存(独自集客力の低下、リピーター率の低下)―などと説明した。
提言として龍崎氏は、(1)感性豊かでマーケット感覚のある若い世代が活躍できる機会の創出(2)宿泊施設の個性的なデザインに対応するための支援―などを挙げた。国の支援策としては、バリアフリー化への補助などだけでなく、デザイン性の向上などに補助する仕組みを提案した。
◆宿と地域の協業
温泉旅館の新たな事業展開については、いせん代表取締役、雪国観光圏代表理事の井口智裕氏が、「温泉御宿龍言」をリニューアルして2019年10月に開業した「ryugon」(新潟県南魚沼市)のコンセプトなどを紹介した。
ryugonは、「雪国を感じる古民家ホテル」として、地域(雪国観光圏)が育む雪国文化を体感してもらう宿泊施設を目指している。ryugonでは雪国文化を家具や建物、料理で表現し、地域との協業で暮らしや文化の体験、住民と触れ合うプログラムなどを提供する。
井口氏は、宿泊施設と地域の協業によって「地域の暮らしや文化を学ぶ滞在型観光」を創出する必要性を指摘。ポストコロナの観光としても滞在型観光は増加するとの見方を示し、「国は滞在型観光を促進するために、休暇取得改革やテレワーク環境の整備などに取り組むべき」と提言した。
◆中心施設へ投資
宿泊施設の再生に関する支援策について、観光戦略実行推進会議の議長を務めている菅官房長官は「今の時期は、内外の観光客が楽しめる環境づくりを実現するため、施設を改修し、経営体制を見直すチャンスだ。地域の中心的な宿泊施設に新たな資本を入れて施設をリノベーションするなど、これらの取り組みを各省庁で積極的に支援していきたい」と述べた。
観光庁は、旅館の新たなビジネスモデルの在り方などについて有識者会議を通じて検討中。特に投資の現状に関して、投資の停滞が施設の老朽化やサービスの低下、客単価の低迷をもたらすとして課題に挙げており、施設のリノベーションやサービスの高付加価値化を促す施策を探っている。
一方の滞在型観光については、赤羽一嘉国土交通相が「働き方改革とも合致したポストコロナにふさわしい滞在型旅行の普及など新しい課題に取り組みたい」と述べた。観光庁は休暇取得の分散化、ワーケーション、サテライトオフィスなどを通じた新しい旅行スタイルとして滞在型観光の普及を検討する。