定額給付金の支給が始まった。給付額は1人当たり1万2千円で、18歳以下と65歳以上には8千円が加算される。効果を疑問視する声は依然根強いが、低迷する景気の刺激策として期待する業界も少なくない。その1つが観光業界で、旅館組合や旅行会社、観光協会などでは給付額にちなんだ商品やサービスを始めている。各地の“定額給付金商戦”を追った。
群馬県みなかみ町と同町観光まちづくり協会は同町内の約70施設を利用した宿泊客を対象にキャッシュバックサービスを始めた。宿泊料金の一部を宿泊客に戻すもので、宿泊料金が8千円未満の場合は1千円、8千円以上の場合は2千円をキャッシュバックする。
3月15日から4月30日までの宿泊を対象としたサービス。期間中、土曜日を除いた日が対象となる。10人以上の団体での利用は対象外。
3月5日から専用電話を設置して受け付けを始めたが、初日には300人を超える申し込みがあり、出だしは好調。キャッシュバックのために同町と宿泊施設が用意した予算計2800万円から、同協会では先着1万5千人程度がサービスを受けられるのではないかと試算するが、2週間ほどで予約がいっぱいになりそうと見る。
同町への観光客は県内のほか、埼玉県からの利用者も多い。新聞紙上などで首都圏中心に取り組みをPRし、利用者が伸び悩んでいる現状を打破したい考えだ。
静岡県の伊豆長岡温泉旅館協同組合は定額給付金をもじった「定額給付券」キャンペーンを展開中。給付券1万円分を抽選で1万人にプレゼントするもので、33の旅館・ホテルで使用することができる。「冷え込む消費や地域経済の起爆剤になれば」と同旅組。
2月22日から応募を開始。7日現在、はがきは2800枚、インターネットでの応募は5千通に達し「予想以上の反響だ」と驚く。応募締め切りは5月末だが「どのくらいになりそうか検討がつかない」と嬉しい悲鳴。
宿泊客は年間90万人を超えていた時もあったが、現在では約50万人と大きくダウン。今回の給付券で話題を提供、宿泊客増へつなげたい意向だ。
3月1日から一律1万2千円で宿泊できる「定額給付金得々プラン」を開始したのは滋賀県のおごと温泉旅館協同組合。組合所属の全旅館(10軒)が参加している。プランは1室2人利用で平日限定とした。1泊夕朝食付きでの通常料金は1万5千円程度なので、3千円ほど安く宿泊できる。6月末まで実施。
びわ湖花街道の佐藤祐子専務(同旅組副会長)は「当館ではすでに約50件の予約が入っている。給付金に対しては批判的な意見も少なからずあったので(反響の大きさに)ビックリしている。滋賀県で使っていただき、地域経済の活性化につながれば」と期待する。
佐賀県嬉野市の温泉旅館組合は、同温泉で利用できるプレミアム付き宿泊券を5月をめどに発行する方針だ。売価7千、1万、1万5千円の宿泊券だが、それぞれ額面の1割のプレミアムが付く。併せて同組合所属の旅館は、7700円、1万1千円、1万6500円で宿泊できる宿泊プランを用意。
通常よりもサービスなどを充実させたお得感ある宿泊プランで、利用者を呼び込む。「宿泊券が誘客のきっかけになり、ひいてはリピーターの確保につながれば」と同市観光商工課。
各温泉地が給付金プランをつくる中で、異色なのが静岡市の梅ヶ島温泉の取り組み。「定額給付金プラン」と称する1泊2食2人で1万2千円の格安宿泊プランを発売したが、プランによる売り上げの約1割を派遣切り救済事業を行う団体に寄付する点が特徴だ。
年度末に派遣切りや派遣村のニュースに触れたことがきっかけとなり、派遣切りで苦労している人の支援と地元の景気回復の後押しができないかと企画した。1人あたり6千円と同温泉に宿泊する際の通常の価格よりも3〜5割安いが、地元の食材を使った地産地消メニューを提供する点などは通常と変わらない。
同温泉観光組合に所属する施設全13施設のうち、11施設が宿泊プランを実施する。プラン設定日は4月1〜20日の全日。各旅館がプラン用に毎日1、2室部屋を用意し、部屋が埋まり次第予約を締め切る仕組み。3月11〜20日の10日間、同組合案内所で予約を受け付ける。
手島泰宣組合長(梅薫楼)は、「今回の給付金を少しでも多く地元で使っていただくことで、地元の景気回復の一助となれば」と期待する。
定額給付金に絡めた宿泊プランやサービスは新潟県妙高市観光協会も検討しており、今後さらに拡大しそうだ。
“定額給付券”をアピールする伊豆長岡温泉旅組の女将さん