
水害後も変わらぬ荘厳さがただよう那智の滝
和歌山県は、昨年9月に起きた紀伊半島大水害の観光に対する長引く風評を払しょくしようと、官民を挙げたPRに力を入れている。被害を受けた道路や鉄道、観光施設は関係機関の尽力で、旅行者の受け入れに支障のない状態に復旧しているが、観光客の回復が伴わない地域がある。世界遺産の登録で知られる熊野三山、熊野古道などの周辺地域では、早期の観光需要の回復に懸命となっている。
県は、年末年始(昨年12月30日〜今年1月3日)の主要観光地の観光動向を調査した。県全体の宿泊客数は前年同期比7.0%減。地域によってはさらに厳しく、熊野本宮大社がある田辺市本宮町は29.3%減、熊野那智大社がある那智勝浦町は16.7%減だった。年末年始の前後はさらに落ち込みが大きいとみられる。
田辺市本宮町、川湯温泉の老舗旅館、冨士屋は浸水被害で一時休館したが、昨年10月4日に再開した。冨士屋の小渕浩史社長は「施設も、道路も観光に問題はない。地域を挙げて熊野古道を生かした滞在プランも展開している。後はお客さまに来てもらうだけ」と語る。
熊野古道の中でも人気が高い中なか辺へ路ちルートは、観光客の通行が多い区間は平常通り散策が可能。被害を受けた一部区間については迂回路を設置することで、3月10日には滝尻王子〜本宮大社間がすべて通行可能になる。
奥熊野の清流を堪能できる観光船「瀞峡ウォータージェット船」は昨年12月21日に運航を再開した。新宮市の志古乗船場にある営業所が被害を受けたが、15隻の観光船は無事だった。「スタッフが係留柵を操作して船を守った。瀞峡の景観への大きな被害はなく、魅力的なままだ」と運航会社、熊野交通の吉川晴雄社長。運賃割引のキャンペーンを8月31日まで実施し、客足の回復を目指す。
本宮から新宮に至る“川の参詣道”を小型船で下る熊野川の川舟下りは現在運休中だが、4月1日に再開する予定。川舟下りを運営する熊野川町ふれあい公社(新宮市)の品田顕二郎・川舟センター長は「関係団体やボランティアの協力を得て川原の清掃にも取り組む。お客さまに早く戻ってきてもらえるよう割引キャンペーンなども検討している」と再開に備える。
那智勝浦町では、水害の際には熊野那智大社に土砂が流入したり、那智山に通じる道路が被害を受けたりしたが、復旧作業によって観光に支障はない。県の観光ガイド専門員「紀州語り部」、熊野・那智ガイドの会理事の山東健氏は「地域を挙げて復興にがんばっているので、多くの旅行者に訪れてほしい」と呼びかける。
熊野三山や熊野古道の周辺観光地にとっては、世界遺産としての認知度に加え、「山ガール」「パワースポット」のブームなどで注目度が高まっていた矢先の水害だった。しかし、古くから信仰の地として“魂の再生を願う参詣者が目指した熊野は、「生きながら生まれ変わる『黄泉がえり』の地」と言われてきた。
県観光局観光振興課の山西毅治課長は「熊野は水害から“よみがえっている”と知ってほしい。東日本大震災、紀伊半島大水害があって、人々の間にさまざまな思いが芽生えている。観光復興に向けたプロモーションを熊野に改めて目を向けてもらう契機にしたい」と話す。
県では、水害の風評を払しょくし、観光客の早期回復を図るとともに、2013年には伊勢神宮(三重県伊勢市)の式年遷宮があることから、和歌山県への周遊につながるよう旅行会社やメディアへの働き掛けも強化していく。熊野古道などが世界遺産に登録されて10周年を迎える14年にもプロモーションを仕掛けたい考えだ。

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