全旅連 会長 多田計介氏に聞く 日本独自の文化「旅館」を絶やしてはならぬ


次の100年へ、宿泊業界の道筋を示す

組合員の声をしっかり政治の場へ

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)は9月13日、東京のホテルニューオータニで節目となる第100回の全国大会を開く。コロナ禍で昨年、一昨年はリモートによる大会となり、リアルでの開催は3年ぶり。当日は千人規模の参加が見込まれ、各種のセレモニーに加え、要人の来訪、記念講演も予定。宿泊業界の結束力を示す絶好の機会となる。多田計介会長(石川県・ゆけむりの宿美湾荘会長)に今後の組織運営と記念大会開催に向けた現在の心境を語っていただいた。(東京の全国旅館会館で。聞き手=本社・森田淳)

 

 ――新型コロナの発生から2年半超。業界の現状をどう捉えているか。

 試練の連続で最悪の状況に変わりはない。国や地方自治体にさまざまな手を打っていただき、打たなければもっとひどくなっていたとは思うのだが、コロナ禍の2年目以降はわれわれ宿泊業にとって効果のある施策が少なかったように感じる。

 コロナによる負債は、ほかの業界もあるだろうが、われわれの業界は特にダメージが大きい。

 今の行動制限がない形がキープされないと、また国による旅行需要喚起策が早期に開始されないと、さらに大変なことになってしまう。宿泊業界の声が政治の場にしっかり届くような活動を、より強くやらねばならないと感じている。われわれを所管する厚生労働省、そして観光をつかさどる観光庁と連携を密に、元のレール、あるいはそれ以上のステージに乗せる努力をしたい。

 一言言わせてもらいたいのは、魔女狩りはいけないということ。旅行が感染を拡大させたという、エビデンスがないことを報道され、われわれはいわれのない大きな風評被害を受けている。何が感染を拡大させたのか。しっかり検証をして、正しい情報を出すべきではないか。

 マスコミは感染者数ばかりを相変わらず報道するが、オミクロン株に変異してから死者や重症者数の割合が激減している。しかし、感染者数が多いことばかりを強調して、人々の恐怖心をあおっている。台風のときに被害が大きいところばかりを映すのと同じ。人の不幸は蜜の味、のような考えはやめていただきたい。

 ――いわゆる「ゼロゼロ融資」の返済が始まると、事業者のさらなる経営破綻が懸念される。

 売り上げが100に戻っていないところで返済が始まるということは、要は弱った人間に無理をさせるのと同じで、当然もつわけがない。通常の経営環境の中での借金ではない。コロナ対策のため、国が人流をストップさせたことによる、いわば天と人災だ。なだらかな道筋というものを国に要望しなければならないだろう。金融機関にも真剣に考えてもらいたい。

 もちろん経営者自身も頑張らなければいけないが、国や金融機関には事情を考慮していただきたい。よその国にはない、日本独自の文化である旅館。そんな大切な文化を絶やすことのないように、していただきたい。

 ――全国旅行支援は第7波の流行で開始が延期となったが、各地で県民割などが展開されている。

 私たちは地方創生の推進役であり、弱体化させてはいけないと、地方行政の多くのトップは認識している。私の地元の七尾市もそうで、「七尾版Go Toトラベル事業」などを進めている。われわれとしては行政に対して、観光は地方にとって重要な産業だということをさらに啓蒙する必要があるし、各地で展開されている良い事例を組合員を通して全国にフィードバックする必要がある。

 ――旅館業法の見直しが、多田会長も構成員となった厚労省の検討会で議論され、先ごろ一つの方向性が出たようだ。

 先日(7月14日)の検討会でほぼ全ての構成員が了承し、方向性がまとまった。宿泊客を受け入れる側と宿泊をする側、それぞれが意見を出し合ったが、その妥協点というわけでもないが、一定の方向性を得た。

 宿泊拒否制限を規定した第5条については、パンデミックの際にお客さまに医療機関への受診などさまざまな要望をして、受け入れられなかった場合は宿泊を拒否できるようになる。

 われわれの側も、宿泊者を不当に差別しないように、人権に関する従業員研修が努力義務となる。

 パンデミックであるかないかに関わらず、迷惑客には断固として宿泊拒否をできるという権利がわれわれには必要だ。今までの社会は、お金を払えば何をしてもいいと言わんばかりに、お客さまの行状についてあまりにも寛容すぎた。鉄道の駅員も酔客に殴られる人がたくさんいるという。こんな社会が横行してはいけない。

 今回、宿題となったのは罰則規定だ。第5条に違反した事業者には50万円以下の罰金が科せられる。これはあまりにも重いと、法律家の先生もおっしゃっている。法律は数年後に見直されるはずなので、その機会にさらなる議論をしたい。

 ――宿泊者名簿を規定した旅館業法第6条は、職業の記載を外すことになる。

 これは全ての構成員から同意を得た。今となってはあまり意味がない。法律が制定されて70年余り。当時とずれが生じるのは当然で、時代に合った法律に変えていかねばならない。

 ただ、この前の業法と政省令の改正で、旅館営業の最低室数制限が廃止され、1室でも営業できるようになった。これは危険な民泊営業を助長する危険性があり、私は反対だ。われわれは人の命を預かる商売。これが軽んじられることは許されない。

 

SDGsの取り組み強化 食材の完結使用、プラ削減へ

 ――全旅連は新年度、SDGsの取り組みに力を入れるという。具体的には。

 プラスチックの削減と、さらに重要なのは食材の完結使用だ。食べ残しのごみをどう減らしていくか。業界団体としてしっかり啓蒙していく。
残飯が出なければ、食材を買う金額とごみを出すときの金額、中規模クラス以上の旅館では合わせて年間1千万円ぐらいが削減できるのではないか。まさに一石二鳥だ。

 先日(7月13日)の全旅連シルバースター部会総代会で、「食品ロスを減らすために旅館・ホテルにできること」をテーマに専門家が講演された。このような専門家の方々からさまざまなことを教わりたい。

 ――宴会料理について、旅行会社の注文で品数を増やしていったなどの事例も過去にあったと聞く。

 品数を増やしてもいただく料金が変わらないと、料理全体の質が落ちることになる。そしておいしくないからお客さまが残す。旅館料理はおいしくないというレッテルが張られてしまう。われわれも含めて真剣に考えるべきだ。

 ――SDGsへの取り組みが、特に外国人観光客にとっては宿選びの重要な指標になるという。

 外国人の目線がどこにあるのか。観光庁などが持っているビッグデータを活用して、しっかり分析する必要がある。

 ――人手不足への対応や生産性向上も今後の宿泊業界の大きな課題だ。

 国内旅行、特に企業を中心とした団体旅行はコロナ後も増えないだろう。残るのは同好の士によるグループでの旅行やFIT。ほとんどの旅館がFITへの対応を強化していかねばならない。

 しかし、団体旅行に比べてFITへの対応は手間がかかる。この問題をどう解決するかだ。既に取り組んでいる事業者のビジネスモデルを研究して、ノウハウを共有することも必要だろう。

 人手不足の解消には、従業員の給料を上げていかねばならない。楽しく仕事ができて、満足感があって、給料もそこそこ。そうでないと人が集まらない。

 人手の部分は外国人の方の力も借りなければならない。旅館でも外国人の従業員に違和感を覚えるお客さまはほとんどいないはずだ。外国人と共生できる環境整備も必要だ。

 

先人と出会った仲間に感謝 大波を共に乗り越えよう

 ――全国大会は区切りの第100回。

 感染の第7波で心配したが、今は腹をくくっている。今までの波を見ても、開催日周辺はピークを過ぎ、リアル開催できるものと信じている。
当日は全国から、800から千人規模の参加を見込んでいる。実際に足を運んでいただける方々はこの困難なときにもかなり頑張って営業を続けられている方々なので、その点に最大限の敬意を表したい。

 ――大会では安倍晋三元首相の講演が予定されていた。

 大変残念なことだ。喪に服したあと、どうすべきか検討をし、菅義偉前首相にお願い致したところ、快諾をいただいた。

 Go Toトラベル事業をぶれずに実施し、ワクチン接種も徹底的に進められた。当時、全旅連青年部長だった鈴木治彦さんが総裁選のときの応援演説を行った縁もある。記念の全国大会に花を添えるのに最適な方だ。

 ――100回の歴史をつむいだ先人と、これからの業界を担う若い人たちに一言。

 会長を引き受けさせていただき、東京の全国旅館会館に頻繁に来るようになった。入り口に立つ初代会長の山田彌一さんの胸像に上京するたびに頭を下げる。朝、ごあいさつをして、いいことがあったその日の帰りは「ありがとうございました」とつぶやいて頭を下げて帰る。

 実際にお会いしたことはないが、永田町という一等地にわれわれ業界の基地を造った先見の明に尊敬の念を禁じ得ない。もちろん、山田会長だけでなく、関わった多くの先人の皆さまに感謝をしている。

 歴史のページはいろいろあるが、その時々に家業を顧みず、業界のために汗をかいてくれた諸先輩のおかげで、この組織が全国的にしっかり機能しているし、大会も100回目を迎えられたということで、本当にありがたい。

 私が組織をお預かりしているときにたまたま100回を迎えたわけだが、大変な歴史ということは改めて思うし、私自身が青年部員として出向してからこの組織でいろいろ勉強をさせていただいたこと、出会った皆さまに改めて感謝を申し上げる。

 このような経緯を考えて、これからもこの組織を後世にしっかりつないでいかなければならないと感じている。

 これからの業界を担う若い人たちは、親父の背中を見ながら育ち、親父のようになりたいと思っている人や、親父を反面教師にしたいと思っている人などさまざまいると思う。

 間違いなく言えるのは、自分たちが新しい時代を創っていくということ。その時代はもう、目の前に来ている。

 自分の宿ももちろん大事だが、業界全体のことを考えてほしい。業界を取り巻く諸問題の解決には自分1人では立ち向かえない。業界全体が同じ方向に動くこと。先人たちのように業界のために汗をかいてほしい。

 ――全国大会の参加者、全国の組合員に一言。

 逆境の中、ここまでよく耐えてきたと、お互いたたえ合いたい。苦しさはまだ続くが、仲間同士で情報を共有し、この大きな波を乗り越えたい。

 都道府県と旅館・ホテル組合との災害協定が各地で結ばれた。災害時の被災者受け入れに、われわれの施設が利用される。

 プライバシーを守りながら安心、安全に避難できる場所は旅館・ホテルのほかにはない。行政側も恐らく、われわれを頼りにしているし、われわれは期待に応え、そのことを誇りに思うべきだ。

 依然として苦しい中ではあるが、胸を張ってそれぞれの事業をしっかりと進めていきましょう。

 

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