全旅連と大手旅行会社、「観光立国推進」へ初の懇談会


全旅連正副会長らと大手旅行業トップらが初めて顔をそろえた

「中小宿泊施設への誘客」などテーマに

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)は7月17日、東京の全国旅館会館で旅行業大手5社の社長らと「観光立国の推進に向けた懇談会」を開いた(先週号一部既報)。厚労省所管の全旅連が観光をテーマに旅行業トップと正式な場を持つのは今回が初めて。訪日外国人誘客、国内旅行誘客、中小宿泊施設への誘客の三つをテーマに、正副会長ら14氏が現状や5社のそれぞれの取り組みを聞いたほか、特に全旅連組合員に多い中小宿泊施設の活性化について、今後の連携を呼び掛けた。全旅連は同様の懇談会を年1回程度開催したい意向を示している。

 多田計介・全旅連会長

 全旅連の多田計介会長(石川県・ゆけむりの宿美湾荘)は「全旅連は厚生労働省の指導を受け、活動してきた組織。昨年、『観光立国の推進』を組織の目的に入れようとしたところ、厚労省から認めていただき、定款変更した。商売(観光客誘致)に関する話も、他の観光・宿泊団体と同様にできるようになった」と、今回の懇談会開催までの経緯を説明。

 多田会長は、中小宿泊施設が多くを占める全旅連組合員について、「活力の出る取り組みを模索している。日本の観光を支える旅行業のトップの皆さまから、参考となる話をいただければ」と述べた。

 引き続き旅行業5社のトップらが国内観光、インバウンドの現状や各社の取り組みを説明した。要旨は次の通り。


 髙橋広行・JTB社長

 訪日インバウンドの消費を増やすには、消費のフィールドを広げなければならない。リピーターを地方にどう呼び込むか。そして、どう消費をしてもらうかを考えなければならない。

 私どもの地方分散を図る取り組みの一つは「FUN!JAPAN(ファン・ジャパン)」という訪日外国人向けの日本の紹介サイト。そこで各地のさまざまな旬の魅力を発信している。

 全国には個性的で魅力ある中小旅館がたくさんある。ただ、客室数が少ないため、われわれサイドからするとなかなか在庫をお預かりできず、企画商品化できない。

 方向性としては、ウェブを利用したネット上での展開。「大人の隠れ宿」「秘湯の宿」といった、個性をアピールした商品展開が必要だ。

 堀坂明弘・日本旅行社長

 地方の宿泊施設はまだキャパがある。宿泊施設が足りないとの声をよく聞くが、(全旅連の)皆さんの施設を結集すれば、まだ余裕をもって提供できるはずだ。

 観光地の二次アクセスも地方では設定に難しい部分もあるが、旅館が個々に運行するだけでなく、エリアにおける共同運行などの取り組みも必要ではないか。

 国内には無料の観光コンテンツが多い。しかし保全するにはお金が必要だ。良いものを残すために、変えていかねばならない。お祭りなど、桟敷席のいい場所を観光客に開放して、お金を落としてもらう。

 われわれはリアルエージェントならではの価値を追求する。宿泊単品の商品であっても、災害が起きた際にはお客さまの安否確認をしっかり行うこと。リアルでしか取り組めない部分をしっかり取り組みたい。


 坂巻伸昭・東武トップツアーズ社長

 地域にどう、お金を落としてもらうか。そこが不明瞭では、例え人が来ても地域は潤わない。地域の中で意識を一つにすることが大事だ。

 日本人の国内旅行は、先のゴールデンウイークでも1人平均2泊いっていない。旅行は1泊ないし2泊が当たり前になっている。日本人の旅に対する考え方を変える必要がある。

 滞在する日数が少なければ少ないほど、地域に落ちるお金は少なくなる。いかに、その地域にとどまってもらうか。滞在できる仕組みを作ることがこれからの観光を考える上で重要だ。

 「地下神殿」と呼ばれている春日部(埼玉県)の外郭放水路を見学するツアーを昨年行ったところ、4万5千人を集めた。テーマを明確にした旅が求められている。


 田ヶ原聡・近畿日本ツーリスト首都圏社長、KNT―CTホールディングス常務取締役

 地方部での外国人宿泊を増やさなければならない。われわれは地方への誘客に積極的に取り組む。

 訪日の着型ツアーでは、一つはクラブツーリズムが行っている日帰り、あるいは宿泊付きの「ようこそジャパンツアー」。年間1500本以上設定しているが、日本人と外国人の混乗という部分が受けている。

 地域において、魅力あるコンテンツを増やすことで客数や滞在日数の増加を図りたい。周辺地域との連携や、旅館・ホテルとの意識の共有により、実現したい。

 中小の施設への誘客努力については、全館貸し切りや、滞在そのものが目的となる商品へのニーズが高まっており、そのような提案を通して集客に努めたい。


 大野哲也・農協観光常務取締役

 インバウンドは団体を中心に取り組んでいる。われわれが得意とする農業分野の視察ツアーが多い。安売りをせず、中身を良くして、上質のお客さまを取り込みたい。

 北海道ではJRとタイアップして、東南アジアの団体向けの商品造成もしている。

 国内旅行誘致に関しては、全国の支店で今までの「発」から、「受け」の事業にも取り組んでいる。そこに勤める社員や、そこを故郷とする社員によるコース造成で、昨年度から取り組んでいる。仕入センターも食をテーマにしたイベントを進めているところだ。

 中小宿泊施設の利用については、全館貸し切りプランなどの造成に取り組んでおり、参画いただいた施設に一生懸命送客している。

【森田淳】

 

 
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