
遠距離の需要喚起
政府は、新型コロナウイルスの感染悪化で実施を見合わせていた観光需要喚起策「全国旅行支援」を開始する。現在実施中の「県民割(地域ブロック割)」を10月10日宿泊分まで延長した上で、全国旅行支援の旅行費用割引を10月11日から適用する。実施主体は都道府県で、国費を財源に全国から誘客可能。準備が整った都道府県から予約受け付けがスタートする。当面の事業期間は12月下旬までで、期間延長を含めたそれ以降の観光支援策は、旅行需要の動向などを踏まえて判断する。
全国旅行支援の開始は、岸田文雄首相が訪米中の9月22日に記者会見で表明した。表明の際には「全国旅行割」という呼称を使用したが、同時に実施を表明した「イベント割」と表現を合わせたとみられ、事業名としては引き続き「全国旅行支援」を使う。
全国旅行支援は、「県民割(地域ブロック割)」事業と違い、誘客に関して旅行者の出発地の都道府県の了解を得る必要はなく、全国を対象に誘客できる。一方で、地域の感染状況の悪化を理由に都道府県独自の判断で事業の開始を見送ったり、誘客を停止できたりする。
割引率や割引上限額などは、観光庁が6月17日に発表した内容から変更はない。具体的には、割引率が40%、1泊当たりの割引上限額が交通付き旅行商品で8千円、宿泊だけなどが5千円。旅行先の土産物店や飲食店などで使えるクーポンの付与額は、平日が3千円、休日が千円。
交通付き旅行商品の割引上限額が高いのは、誘客対象が全国に広がったことで、遠距離の旅行を促進し、交通事業者への支援も強化する狙いがある。クーポンの付与額については、需要の分散化に向けて平日の付与額を休日より高くした。
また、コロナ禍によって大きく需要が低迷した貸し切りバスを利用した団体旅行を支援するため、都道府県に専用給付枠を設定するよう求める。都道府県に対する国費の支援額のうち一定の割合が、貸し切りバスを利用した団体旅行の割引に充当されるようにする。
全国旅行支援の利用者の要件は、「県民割(地域ブロック割)」と同様に、ワクチン3回目接種歴、検査の陰性証明とする。観光庁は、予約・申し込み済みの旅行への割引適用を可能とする方針だが、手続きなどは都道府県ごとの対応となりそうだ。
全国旅行支援の開始について岸田首相は9月22日の会見で、「多くの方に活用いただくことで、コロナ禍で苦しんできた宿泊業、旅行業などを支援していきたい」。斉藤鉄夫国土交通相は9月26日の会見で、「交通機関を使った遠距離の旅行、平日の旅行などを楽しんでもらいたい」「観光・交通関係事業者の支援につながるよう全力を挙げて取り組みたい」と述べた。
実施主体の都道府県が、事業者の参画登録や補助金精算、クーポン配布などの事務局業務を担う。ただ、旅行が全国規模となることから、都道府県外などの旅行業者やOTAの参画登録や補助金精算については、国が開設している全国旅行支援事業の「統一窓口」を利用できるようにする。
全国旅行支援の開始時期は10月11日に設定された。その理由について観光庁は、発表から事業の開始までに必要な準備期間の確保と、10月3連休後の需要喚起の必要性を挙げた。事業期間を12月下旬までとしたことについては、「年末年始を含めるかというのは議論としてあるが、当面は年内のイメージで、具体的な日付は追って公表する」と説明した。
全国旅行支援に充当する既存の予算は国費約5600億円。都道府県には、すでに宿泊実績などを加味して予算を配分済み。都道府県に「県民割(地域ブロック割)」事業の予算が残っていれば、全国旅行支援への充当も可能という。全国旅行支援とは別に、「新たなGo Toトラベル」の予算として約2700億円が確保されているが、全国旅行支援の延長に充当するか、新たなGo Toトラベルを実施するかなどの方針は決まっていない。
12月下旬を当面の期限とする全国旅行支援の延長の可能性や、その後の観光需要喚起策の在り方について斉藤国交相は「年明け以降の対応を含め、今後の旅行需要喚起策については、感染状況や観光需要の動向を踏まえて適切に対応していく」と述べた。観光庁も「支援の必要性なども勘案しながら考えていく」としている。