中国人個人観光ビザの基準緩和、獲得競争強まる


百貨店では中国語表記のサービスも充実してきた(銀座松屋)

百貨店では中国語表記のサービスも充実してきた(銀座松屋)

 7月1日から、中国人向けの個人観光ビザの発給基準が緩和され、発給公館も全土に拡大された。ビザの取得対象世帯数は現在の約10倍、1600万世帯に拡大する見通しで、これまで以上に中国からの観光客が増加しそうだ。また、人民元の弾力化で中国人客が買い物しやすい環境も金融面で整い、購買力はさらに高まると見られる。中国人客を迎える各機関、団体、業界の表情を追った。

 中国からの個人観光客向けビザの発給基準については、富裕層に加え企業や政府機関の中堅幹部クラスが該当する中間層にまで対象を拡大。世帯主が基準を満たせば、世帯主が来日しなくても2親等以内の家族にビザを発給することになった。

観光業界
 観光庁の溝畑宏長官は6月30日〜7月1日、中国・瀋陽を訪問。現地メディアを前に記者会見で訪日旅行を呼びかけたほか、現地旅行会社の関係者らと意見交換した。瀋陽には新たに申請受け付けを始めた公館があり、第1日目の申請代表者には記念品を贈った。

 日本観光旅館連盟は中国人旅行者に対する旅館・ホテルのもてなしの向上、また誘致の機運醸成を目的に、中国語会話や受け入れ促進策を学ぶ研究会の開催に取り組む。

 日観連の研修会は今年3月、日中産官学交流協会と東京都内で初開催し、首都圏を中心に温泉旅館やホテルから20人が参加。中国語講座などが「実践的で分かりやすい」と好評だった。

 今年度の研修会は、日本観光協会の主催、日観連共催の形として、人材対策の国費も活用できるようにした。6月22日には札幌市で開かれ、道内の旅館・ホテル、各地の観光協会などから約60人が集まった。

百貨店・家電
 業績低迷に悩む百貨店業界だが、こと外国人客の売上高は伸びている。

 日本百貨店協会によると、外国人観光客誘致部会委員店(20社40店舗)の5月の売上高は約15億2千万円で、前年比約50%増という好調さだ。中国人客の占める割合は不明だが「相当数あることは間違いない」という。

 委員店からは「最近は事前にネットで情報収集してから来店されるので、ブランドに対する意欲や百貨店に来店する目的も明確になっている」との声が出ている。

 中国人客に人気の東京・銀座。「中国人客がどのくらい来ているのかは不明だが、肌感覚では確実に増えている」というのは松屋。昨年から受付に中国人女性を配置し、フロアガイドも中国語表記にした。もちろん銀聯カードも対応済み。「基準緩和後の対応は特に考えていないが、今のサービスをきっちりとやることで対応したい」としている。

 現在、増床工事中の三越。秋にはリニューアルオープンするが、「これに合わせ外国人向け観光案内所を開設する計画もある」という。英語、中国語に対応できるスタッフを配置し、フロア案内に努めるとともに「周辺の観光案内も行いたい」と意欲を見せる。

 また、中国人旅行者に商品価格を5%割り引くクーポン券を配り始めた百貨店もある。

 日本橋にある高島屋東京店。6月に外資系ラグジュアリーホテル、シャングリ・ラ東京と提携。同ホテルの限定フロアに宿泊し、同店での買い物を希望する外国人客らを対象に、買い物への同伴サービスを始めた。具体的には通訳や免税手続きのサポート、購入物のホテルへの配送などを実施。中国人を始めとする外国人の個人旅行者の取り込みを図っている。

 7月5日には新しい取り組みとして、外国人客に向けた浴衣の貸し出しサービスを行う。6月29日〜7月4日に申し込んだ外国人旅行者先着10人が対象。同店で着付けした後、45分間自由に過ごしてもらう。買い物や飲食をするだけでなく、日本橋周辺の散策なども楽しんでもらう。

 「中国人中間層へのビザ解禁もあり、外国人旅行者はますます増えるはず。日本の風物詩を体験できるサービスを通して、伝統文化を知ってもらえれば」と同店。今後も季節ごとに茶道や日本酒、風呂敷などを体験してもらうサービスを行い、日本文化を知ってもらうとともに、来店のきっかけにしたい考えだ。

 「カメラや炊飯器などをまとめ買いするのが大きな特徴」家電量販店にとっても中国人旅行者の存在は大きい。ビックカメラは今春から、ユニスリー・システムと組んでクーポン券発行サービスを実施。中国国内の主要空港や駅で、商品価格を最大で8%割り引くクーポン券を配布している。

銀聯
 中国銀聯と提携し、加盟店舗の拡大を図ってきた三井住友カードは1日から、福岡・博多地区で中国人旅行者を対象にした利用促進キャンペーンを始めた。

 博多港に寄港した中国発のクルーズ船利用者が対象で、フリーペーパーのクーポンをキャンペーン対象店に提示して銀聯カードで決済すると、特典が受けられる。対象店は博多大丸やベスト電器博多本店など5店舗。同港への大型クルーズ船の寄港は、今年は66回予定されていることからキャンペーンは10月末まで実施する予定だ。

 百貨店やショッピングセンター、アウトレットモールなどでの導入が進む銀聯決済だが、大阪・梅田の地下街「ディアモール大阪」も6月18日から銀聯カードの決済サービスを始めた。同モールは阪神、阪急、JR、大阪市営地下鉄の7つの駅に囲まれ、約100の小売店、飲食店が集まる。周辺には既に銀聯決済を導入している阪神百貨店、阪急百貨店、大丸、ヨドバシカメラなどがあり、「まさに銀聯決済の一大集積地といえ、中国人旅行者の利便性、回遊性がさらに高まる」と三井住友カードは指摘する。

 大型ショッピングセンター「イオンモール」を運営するイオンモールは、中国人旅行者への対応として、銀聯カードの決済サービスを導入している。昨年10月に成田(千葉県、テナント数124店舗)が全館での導入を実現させたほか、今年4月には福岡ルクル(福岡県、同153店舗)、りんくう泉南(大阪府、同125店舗)も全館導入となった。橿原アルルと大和郡山(ともに奈良県)では、「平城遷都1300年祭」に合わせて、一部テナントで導入している。

民間勉強会
 中国人旅行者の訪日需要に着目する民間企業が発足させた「中国訪日需要喚起に関する勉強会」(代表=吉澤勉・ヨドバシカメラグッドコミュニケーション本部取締役本部長)は5月10日、溝畑観光庁長官に対し、訪日ビザの発給基準の緩和、免税申請手続きの改善などを求める提言書を提出した。6月23日には加盟15社の担当者らが観光庁を訪れ、各企業の現状や提言内容について直接説明する機会も持った。

 同勉強会はイオンリテール、資生堂、プリンスホテル、星野リゾート、ヨドバシカメラ、ららぽーとマネジメントなどで構成。提言書では、訪日ビザの基準緩和や申請のウェブ化、有効期間内に何回も訪問できる観光数次ビザの導入を要望。ほかにも言語対応として行政サービスダイヤルのような「中国語コールセンター」の設置、小売店舗での免税申請手続きの簡素化につながる「事後免税制度」の導入に向けた検討を求めている。

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