世界ブランド発想~文化と価値と共生と~ リョケン「令和2年 旅館の経営指針」

  • 2020年1月15日

佐野洋一社長

 コンサルタントのリョケン(佐野洋一社長)はこのほど、「令和2年 旅館の経営指針」を発表した。「世界ブランド発想~文化と価値と共生と~」をテーマに、旅館の経営と提供価値を発想することを提言している。膨大な「指針」の中から、今回のテーマ「世界ブランド発想」の項の一部を紹介する。

◇     ◇

これから、どうなる?

 日本の産業経済は中国やアジア諸国の勢いに押される一方でありかつての世界に冠たる「経済大国・技術立国日本」の姿は、残念ながら過去のものとなりました。その上、人口減少という「避けがたい未来」が重くのしかかっています。これは旅館業界にとって、目先では人手不足問題として深刻化しています。またこのまま行けば、これからの20~30年の間に市場の縮小、地方の衰退といったことが、ほぼ間違いなく訪れる。いや、すでに始まっているといえます。

1、進む観光の国際化

 訪日外国人増加の流れは、国際関係などに大きなトラブルが生じない限り、当面は続くと思われます。

 外国人客は、これまで「インバウンド」という名で、ある種特殊なものとして捉えられてきた感もありますが、これからはむしろ「世界に向けて開かれた日本」という視点から、「観光の国際化」について、じっくり考えていくべきと考えます。なぜなら、旅館こそは日本の観光国際化の1番の担い手であるべき存在であり、裏返すと、観光の国際化は、旅館の存在価値や在り方を見つめる良い機会となるからです。

2、今、起こりつつある変化

(1)外国人に起きている変化

「一見的価値から本質的価値へ」の変化です。

 ここで言う「一見的価値」とは、一度限り接する範囲で味わえる良さ、見た目で関心をそそる面白さ、といったものです。「本質的価値」とは、いろいろな意味を含み一概に言えませんが、それよりもっと普遍的で意味のある、味わい深い価値とお考えください。そのような意味での変化が、すでに始まっています。

 しかし2度、3度…となるにつれて、もはや一般的な旅館文化のようなものは当たり前となり、それらを別にして、「何が良いのか」を見定めるようになるはずです。「本質的価値」が問われることになるのです。

(2)日本人に起きている変化

 ・交流が生む、日本文化の再認識

 交流機会が増える中で、「外国人を受け入れ、もてなす」という行為の在り方を、これまでよりも考えるようになりました。彼らへのもてなし行為を通じて、「日本をどんなふうに見せたらよいか」という意識が働き、「日本的なもの」「日本らしさ」というものがあらためて見直される、というプロセスをもたらしつつあります。日本人が、日本文化を意識するようになってきたのです。

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「世界ブランド」という視点

1、なぜ「世界ブランド発想」なのか?

 国際観光は、今や日本の希望の光でもあります。日本は、世界の中で「文化大国」としての輝きを放つ可能性を持っており、今はそこに踏み出すための、大きなチャンスの時期にあると捉えられます。そして旅館には、「文化大国・日本づくり」を担っていく大きな役割があり、担う力があります。

 文化を地下資源に例えるなら、まだまだ豊富な埋蔵量が日本各地に眠っていると言えます。

 一方で、旅館をはじめとする観光産業は、国際化の流れの中で、あらためて「持続的な価値」は何かが問われ、そうしたものを持つ必要に迫られています。「観光の国際化」とは、観光的価値をもう1度、世界の中に位置付けることです。世界を意識しながら、世界に通用する価値づくりをしていくこと―「世界ブランド発想」をしていく意義は、そこにあります。

2、文化と価値と共生と

(1)文化的価値を載せる

 今言えるのは、観光産業において「伝統的な文化に根差したものは強い」ということです。そればかりではありません。「文化は価値を生む」のです。

 筆文字、余白美、余韻、季節感、花鳥風月、ふるまい…。祭、郷土芸能、工芸、食材や調理法、産業文化…。

 仮に今、提供している商品やサービスを細かく分解してみたとします。バラバラに売るというのは、実際にはあり得ませんが、その時、「それら一つ一つの価値をもっと高めるにはどうするか」、ということを考えてみてください。

 快適さ、便利さ、おいしさ、面白さなど、さまざまな価値要素がありますが、いろいろなものにかぶせることのできる大きなフックとなるのが、「文化的価値です。商品や備えに「文化という意味」を載せることで、価値を高めることができるのです。

(2)共生を真剣に考える

 ・まちづくり

 「まちづくり」において一番大事なことは、まず業種や立場を超えた共同体意識を形成することです。旅館をはじめ飲食店、物産店、観光施設、公共交通機関など、それぞれが町の中で果たす「役割」―どういう意味でそこに存在するのか―を再定義してみることが有効です。

 特に「環境づくり」は大切です。修景として、町並みを奇麗にするということはもちろんですが、近年、深刻な問題となっている空き家や空き店舗を放置せず、なるべく利活用、場合によっては解体撤去して広場とするなど、「生きているまち」にするための取り組みが問われます。外からの出店希望者や起業家の誘致も考えるべき重要なテーマでしょう。

 地域なくして旅館なし、なのです。

 ・他産業との共生

 昨今は観光にまつわる産業構造が大きく変化してきています。宿泊産業が多様化してきていることもその一つですが、他方で「観光産業の立体化」ということが起こっています。

 旅館をはじめとする宿泊施設は、オーバーナイトで長い時間を過ごす場所であり、いわば「観光交流の拠点」と位置付けることができます。そのポジションを生かし、また役割を果たしていくためには、むしろ他産業の取り込みこそ、これから考えていくべき観光開発といえましょう。

 特に独自の強みを持って、世界に製品を送り出しているような「地場産業」(またその集積)は、その有力な候補となるはずです。そしてこれは、「世界ブランド」を意識することにもつながってきます。

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「世界ブランド発想」するなら…の着眼点

1、利用イメージの鮮明化

 自館を利用するお客さま像を具体的に思い描くこと、またその利用場面を「一人称」で感じること、つまり「彼らが」ではなく、彼らになり代わって「自分が」、その場その場の体験を、心を込めてなぞってみることです。

 そしてその際、頭の中で想像していただきたいことが「そのお客さまに・この場に、これはふさわしいか?」「価値が堪能できるか?」―と二つあります。

2、満足でなく、感動させる

 「満足度」という言葉が一人歩きしている感があります。

 試みに、次のような「問い」を持ってみてください。

 それでお客さまはまた来たいと思うか。

 ただ「満足しただけ」で帰らせたら「機会損失」と考えてみましょう。

 お客さまから褒められたことが何回ありますか?

 口頭で、あるいはアンケートで、貴館のスタッフはこのような「一歩踏み込んだ言葉」を、どれだけいただけているでしょうか。いただけるような接客をしているのでしょうか。

3、ブランドづくりを意識する

 ブランドなくして付加価値向上なし。

 収益性の向上を図るためには、ブランド形成を考えていくことが近道です。ブランドは、ハード商品(掛けたお金)の価値を3倍にするものであり、ブランド形成こそ「弱者が強者に打ち勝つための戦略」といえるのです。

 自館に何が期待されているのか、ということを正しく認識しておくことも大切です。要は「らしい」かどうか、ということです。なぜそれが大事か…。

 一つは、期待をしっかり受け止めてそれに応えるため。

 もう一つは、経営資源や労力の浪費を抑えるため。

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一方でやるべき、足元固め

1、戦略ビジョンと収益性の確保

 商品整備をはじめ、将来にわたって解決していかなければならない課題は数多くあります。しかし何をするにもお金が必要になります。さらにここへきて社員の待遇向上が新たな課題となってきており、財務的安定と余力の確保が、これまで以上に求められるようになっています。

 今さら言うまでもないことですが、その源泉となるのは利益です。あらためて収益性の確保にがっちり取り組んでいく必要があります。

2、品質を整える

 館内を「その目・その気」で回ってみましょう。その気になれば、今すぐできる改善があるはずです。中には取り換えや張り替えを必要とし、すぐにできないこともあるかもしれませんが、その場合も、いずれ改善したい課題として意識しておくことです。「あそこが問題」と認識していることが大切です。

3、料理の見直し

 食材原価は、人件費を除けば、おそらく旅館の費用の中で最大のものです。料理は、付加価値の観点でも損益の観点でも、その旅館の体質を左右するカナメといえるものです。ですから料理の方針、献立の組み立て、そして提供状態には、もっと真剣勝負であってよいと考えます。

4、労働生産性の向上

 労働生産性向上の課題は、決して一時のブームではありません。旅館業界にとって当面、いやかなり長期にわたり取り組んでいくべき最重要課題の一つと捉えます。

5、仕組みの構築

 現象面だけ捉えた問題改善という消極的な対応にとどまらず、自立的に変革を生み出す土壌づくりに取り組みましょう。組織人としての意識の全般的な底上げを図るとともに、良いこと、正しいことを是とする社風づくりをしていくことです。

6、社員の待遇向上

 今できることと、いずれ実現すべきことを振り分けてみましょう。

 今はとりあえずかなわないとしても、「より良い未来」のイメージを描けることは、大きな励みとなるものです。

7、採用、定着対策

 人材確保の課題で、意外に盲点となっているのは「定着」です。採用したそばから辞めてしまうのでは、穴の開いたおけに水を溜めるようなものです。人材の確保を必要とするなら、考えるべきは、採用対策の前に、定着対策です。

 まず現場リーダーなど中堅クラスの意識を高めることです。

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世界ブランド発想をすることの意味

 「世界ブランド」は、単にバラ色の未来を夢見るスローガンではありません。

 人口減少、高齢化、競争はますます激化…業界全体として見れば、国内市場だけでは確かに「レッドオーシャン」といえます。しかし、あくまでも日本人客に軸足を置いて、喜ばれるものを追求し続けることが大切なのです。なぜなら…。

健全な商売感覚…日本人でうまくいかないから外国人、という発想はあまりに安易です。

持続性ある価値…あくまで日本人の感性に拠って立つことが、アイデンティティーとなって、持続可能な価値を生みます。

適切なリスク分散…国際化は同時にリスクも大きくなること。過度な依存は危険です。

 ともかく未来図を描き、変えるべきものを変えていくことです。「世界ブランド」は、そういう発想をするためのメガネでもあるのです。「世界からの視点で自館を見る」「世界に向けた視点で自館の在り方を考える」ということをしていきましょう。

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