コロナ下の「中小企業白書」 新分野展開、観光業の事例も


危機を乗り越え再び成長軌道へ

 政府は4月23日、2021年版の「中小企業白書」を決定、公表した。コロナ禍の中小企業への影響が深刻化する中、テーマは「危機を乗り越え、再び確かな成長軌道へ」。財務基盤の強化や経営戦略の見直し、デジタル化、事業承継などが危機を乗り越える力になると指摘。新たな事業分野への展開の重要性にも触れ、具体例では、旅行需要の減少に苦しんだ旅館業や旅行業の取り組みも紹介している。

 新型コロナウイルス感染症の流行の影響では、金融支援の拡大や持続化給付金などの支援策が功を奏しているとみられるが、多くの中小企業は厳しい状況で、引き続き影響を注視する必要がある。白書は、コロナ禍を乗り越えるため、財務基盤の強化、経営戦略の見直し、デジタル化などの取り組みに着目した。
  
   
■財務基盤

 中小企業の財務基盤について、自己資本比率、売上高経常利益率、損益分岐点比率などを指標に分析。このうち損益分岐点比率は、売上高が現在の何%以下の水準になると赤字になるかを表す指標。中小企業の多くは、「損益分岐点比率が高いため、感染症流行のような売上高の急激な変化に弱い」と課題に挙げた。

 損益分岐点比率を業種別に見ると、建設業や卸売業は低いが、宿泊業や飲食サービス業は高い。宿泊業などが売上高の減少に対する耐性が低いことを示している。

 損益分岐点比率の分布は、「製造業や卸売業では90%未満の企業の割合が特に高く、赤字に転落しにくい傾向にあると推察される。宿泊業や娯楽業では100%以上(赤字)の企業も多い一方で、90%未満の割合が半数を超えており、業種の中でのばらつきも見られる」。

 財務の安全性や収益性の水準向上について白書は、「財務基盤が特に弱い状態が続くことは、繰り返し訪れる事業環境の変化を乗り越える上で課題となり得る。業態の近い他社と比較して、自社の財務基盤、収益構造がどのような状態にあるのかを把握しておくことが重要」と提言した。

 
■経営戦略

 業績を成長軌道に戻すためには、新たな経営戦略の策定や業務改革を並行して進めていく必要がある。高付加価値製品・サービスの拡充、新規顧客の開拓、生産効率の改善、社内人材の教育・訓練などを課題に挙げた。

 経営戦略を見直す上では、特にコロナ流行以前からの事業環境の変化として、「環境・エネルギー、SDGs/ESG」「グローバル化」に着目する必要性を指摘。環境分野、海外市場に進出し、新たな需要の開拓に意欲を示す中小企業が少なくなく、越境EC(電子商取引)の利用も有効としている。

■デジタル化

 コロナ禍において事業継続力と競争力を高めるためのデジタル化の重要度が増していると指摘。ウェブ会議やテレワーク、オンラインでの商談などに取り組む企業が増え、意識の変化がうかがえるが、アナログ的な価値観の定着、組織のITリテラシーの不足、IT人材の確保と育成などが課題と示唆した。

 白書は、デジタル化は課題解決の手段の一つと位置付け、「デジタル化に向けては経営者の関与や全社的な推進体制の構築をはじめとする組織改革が重要。事業方針と照らし合わせ、自社の現状に合ったデジタル化を模索していくことが欠かせない」。デジタル化を契機とした推進体制の構築や業務プロセスの見直しは、労働生産性の向上につながる重要な取り組みと指摘した。

 
■事業承継

 経営者の高齢化などに加え、コロナ禍の影響もあり、2020年の廃業件数は過去最多とみられている。中には高い利益を上げていた企業もあり、経営資源を有効に活用できる事業承継が課題。単なる経営者交代の機会ではなく、「企業のさらなる成長、発展の転換点」として、事業承継に向けた準備や承継後の経営に臨むことの重要性を指摘した。親族への承継希望は多いが、親族以外への承継も増え、事業承継を契機に、経営理念の再構築、販路拡大など新たなチャレンジで成果を上げる事例も目立つ。

 事業承継の一つ、M&Aについては、近年、「プラスのイメージになった」と感じる中小企業の経営者が多いことも紹介。過去にM&Aを実施したことがある企業や、経営者の年齢が若い企業では、買い手としてのM&Aの実施意向が高く、売り上げ、市場シェアの拡大など成長戦略の手段として検討している企業が多いとも指摘した。ただ、情報不足が障壁となっており、M&A支援機関などによるサポートの重要性を提言した。

■新事業展開

 白書は、コロナ禍における中小企業の新たな事業展開に着目した。社会変容やトレンドの変化、消費者の新たなニーズをつかみ、販路開拓や新事業の創出につなげていく重要性を指摘し、具体的な事業者の実践例を紹介した。コロナ禍の打撃が大きかった旅館業、旅行業などの取り組みを多く挙げた。

 共栄旅行サービス(埼玉県草加市)は、地元密着型の旅行業の強みを生かし、弁当の宅配事業に注力した。チラシやホームページで宣伝し、地元食材を使った弁当が評判になった。

 京都旅行のコンサルティングを手掛けていたCerca Travel(京都市)は、コロナ禍で旅行需要が減少したため、動画配信やオンラインツアーを始めた結果、動画の撮影や制作を依頼されるようになり、映像制作事業が新しい事業の柱になった。

 インバウンド客が中心だった旅館、山城屋(大分県由布市)は売り上げの急減に対し、もとより宿泊客の評判が良かったみそを商品化し、自社ECサイトや地元百貨店での販売を始めた。
 WhyKumano(和歌山県那智勝浦町)は、運営するゲストハウスが開店休業状態になり、ビデオ通話アプリを使って宿泊を疑似体験できるオンライン宿泊を開始。予約枠が埋まるほどの人気で、新規顧客の開拓にもつながった。

 旅館比与志(埼玉県秩父市)は、地元の創作料理店と連携し、二十四節気にちなんだ朝食を企画したほか、地元の事業者と連携してエステ付き宿泊プランを開発した。これらの企画をインスタグラムで発信し、順調に予約を獲得した。

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(1)中小企業の財務基盤と感染症の影響を踏まえた経営戦略

 感染症流行下における大規模な資金繰り支援が、中小企業を取り巻く金融環境に与えた影響を確認。中小企業の財務に対する意識と業績との関係などを分析し、財務の安全性を確保し、時代の変化に合わせて経営戦略の見直しに取り組むことの重要性を指摘。

(2)事業継続力と競争力を高めるデジタル化

 生産性向上や働き方改革に加えて、事業継続力強化の観点からも、中小企業におけるデジタル化の重要性が急速に高まっていることを指摘。ITツール利活用の現状と課題について明らかにするとともに、デジタル化の取り組みを成功させる上で重要となる取り組み(例=意識改革、人材活躍、業務変革、制度見直し、社外との連携など)に着目して分析。

(3)事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用

 感染症の影響や経営者の高齢化により、廃業のリスクも高まる中で、技術や人材を引き継いでいくために重要となる事業承継などの進展状況や、M&Aを活用した規模拡大・新事業展開の取り組み事例について調査・分析。

(4)消費者の意識変化と小規模事業者の底力

 感染症流行下においても、地域経済の活性化やSDGsの取り組みに貢献している小規模事業者の事例を取り上げつつ、感染症をきっかけとした社会変容のトレンドや、消費者の新たなニーズを的確につかみ、販路開拓や新事業の創出につなげていくことの重要性を指摘。

 
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