若い力で地方観光に爪痕を
オーバーツーリズムによる課題が深刻化しているなかで地方への期待が高まる。一方で、例えば10年前と比較して、戦略、施策、組織、中核メンバーがどう変化し、結果として日帰りや1泊が基調の旅行マインドをどう変えたのかと問われると、その答えに苦労される方も多いと思う。
また、コンテンツの数を増やしていくことは必ずしも魅力を高めることにはならない。むしろ希少性や必然性が減退し、全体の価値や訪問意欲を低下させる恐れもある。
私は行政、宿泊業、専門家の立場で地方観光の推進に携わり20年近くになる。
松山市時代に立案した瀬戸内・松山構想は、山陽新幹線を基軸に瀬戸内海航路を連結させ、しまなみ海道をループさせる周遊ルートを描きながら、松山・道後・しまなみを核に愛媛の魅力を磨き、広島ブランドにジョイントさせた。これが広島の付加価値となり、修学旅行のマーケットも動かした。
一方、昨年度の国の公募事業「新たなビジネス手法の導入による宿泊業を核とした旅行サービスの提供促進に向けた実証調査」では、館内に「宿の駅(宿泊者と生産者との交流の拠点)」を設置したうえで、緑ナンバー取得のプレミアムバスを活用し、宿の駅発の生産者やその故郷へのツアーに誘う「道後×しまなみ周遊滞在促進誘客ビジネスモデル」を提案し採択を受けた。現在、観光庁HPで宿泊業が展開する広域周遊の取り組み事例として全国で唯一紹介されている。
これらの経験と教訓、また、専門家として全国のさまざまな地域での活動から、地方観光の推進のための行動を整理した。
一例を挙げると、(1)コンテンツはフォーカス&ニューコンビネーション、つまり「“あれもこれも”より、“あれとこれ”+ストーリー」(2)宿泊施設を拠点とした2泊以上の滞在を促進する商品の企画造成(3)プラットホームの形成(4)交通キャリアや新幹線の主要駅のある近隣エリアから注目され、連携価値やビジネスチャンスをもたらすレベルまで高めていく継続的な行動―などである。近い将来、「1泊や2泊で物足りない、もったいない〇〇(県名)」で地方が競い合えるよう独自のモデルで提案活動も続けたい。
また、観光、宿泊業を担う人材が不足しており、特に、若年層の獲得、即戦力化は緊急課題である。弊社では、宿泊業には人を成長させる舞台として社会人即戦力を育み、輩出する専門学校的な役割もあると発想を転換した。若い力を引き出し地方観光に爪痕を残す斬新な取り組みにも挑戦している。