宿泊客の多言語対応もサポート
エボラブルアジア(本社・東京都港区、吉村英毅社長)と同社完全子会社で高級宿泊予約サイト「らくだ倶楽部」を運営のらくだ倶楽部(同)は、エアビーアンドビー(本社・米国カリフォルニア州サンフランシスコ)と提携し、国内旅館・ホテル向けインバウンド集客支援サービスを5月15日から始めた。同支援サービスの具体的内容と背景について、吉村社長とエアビーアンドビー・ジャパン執行役員ホームシェアリング事業統括本部長の長田英知氏に話を聞いた。【江口英一】
エボラブルアジア 代表取締役社長 吉村英毅氏
強力な集客力の活用を
――エアビーアンドビーと提携して、旅館・ホテル向けにインバウンド宿泊客の集客支援サービスを始めた。
「エボラブルアジア傘下の高級旅館・ホテル予約サイト『らくだ倶楽部』では約1400軒の宿泊施設と取引があるが、インバウンド宿泊客の獲得では苦労されている施設も少なくなかった。それらの施設に対して、強力なインバウンド集客プラットフォームであるエアビーの力を活用して、訪日外国人宿泊客を誘導させていただこうと考えた。また、らくだ倶楽部と契約のない、全国の旅館、民宿、ペンションなどに対しても同様のお手伝いをさせていただき、地域活性化、地方創生の一助になれればと思っている」
――具体的なサービス内容は。
「エアビーのサイトへのプラン作成、販売登録などの作業を全て弊社が代行する。また、予約者であるゲストとの間で発生する多言語でのメールのやりとりも代行する。ゲストのチェックイン後も弊社の多言語対応コールセンターが宿泊者とのコミュニケーションのサポートをする」
――らくだ倶楽部と在庫共有をするのか。
「エアビーとはAPI連携でシステムを接続している。らくだ倶楽部は主要なサイトコントローラとつながっているので、らくだ倶楽部を経由してエアビーに客室を出すイメージだ」
――らくだ倶楽部と契約のない施設の場合は。
「同様にらくだ倶楽部のシステムを使ってコントロールする。ただし、その施設はエアビーには載るが、らくだ倶楽部には載らない」
――宿泊施設が、らくだ倶楽部を通してエアビーとつきあうことのメリットは。
「外国人にとって魅力的な英語でプラン名をつけたり、食事のアレルギー対応の打ち合わせを外国語でチャットメールしたり、宿泊中にトラブルが発生した時に多言語コールセンターが間に入って通訳したりする。インバウンド宿泊客対応のコンサルテーションもさせていただく。人的コストや作業の手間を弊社でお引き受けする形だ」
――手数料はどうなるのか。
「全てのサービスを含めて10%。一般的な国内OTAやらくだ倶楽部の手数料と同じだ」
――インバウンド集客でエアビーを使うメリットは何か。
「エアビーは100%クレジットカード事前決済のため、ノーショウもキャンセルチャージの取りもれも発生しない」
――らくだ倶楽部と契約のない、全国の旅館、民宿、ペンションなども積極的に誘っている。
「いま全国で説明会を開いており、ペンションや民宿は多数ご契約いただいている。インバウンド宿泊客を受けたいが、ITリテラシーがなく、外国語対応も自信がない、という施設には喜んでいただいている」
「エアビーの基本コンセプトは、そこでしか経験できない『体験』や『ゲストとホストの交流』だ。従って、日本文化が体験できる旅館、ホストとの交流ができる民宿やペンションは、実はエアビー利用者が最も望んでいる種類の宿泊場所となっている」
Airbnb Japan 執行役員ホームシェアリング事業統括部長 長田英知氏
体験、交流の提供に期待
――エアビーアンドビーの現況は。
「世界191カ国、6万5千都市で展開している。現在の掲載部屋数は、世界全体で400万件、日本国内で5万5千件以上となっている」
――インバウンドの実績数値は。
「2016年1年間で、エアビーのプラットフォームを使って来日し、日本国内に宿泊したゲストは約370万人。弊社の試算では経済波及効果は約9200億円に上る」
――宿泊者が多いエリアは。
「東京、大阪、京都、福岡、札幌、沖縄が多い。最近は、これらの地域の周辺都市などに広がってきている」
――どこから来日するユーザー(ゲスト)が人数的に多いのか。
「2016年は、距離的に日本に近い中国、韓国、台湾、香港からが多かった。またエアビーがサンフランシスコ発祥のサービスということもあり、米国人も比較的多い」
――訪日ユーザーの特徴は。
「初来日の方より、訪日リピーターの利用が多いようだ。旅慣れたゲストがよくご利用になる」
――エアビーの手数料モデルはどうなっているのか。
「ホスト(宿泊先)側からホストサービス料として3~5%、ゲスト(宿泊者)側からゲストサービス料として5~15%の手数料をいただいている」
――手数料率に幅があるのはなぜか。
「宿泊施設の場合、キャンセルポリシーを厳格にすると5%になるが、通常は3%だ。ゲストサービス料は金額や時期などさまざまな条件によって変動する」
――一般的なOTAと比べて、宿泊施設が負担する手数料率は低い。
「もともとが個人と個人を結ぶC2Cのプラットフォームであり、OTAとは発想が異なるかもしれない。OTAはゲストから手数料を取らないが、弊社はいただいている」
――事前カード決済なので、ノーショウリスクがないと聞いている。
「当日の現金のやりとりをなくしている。ゲストはエアビーのサイトでまず自分のアカウントを登録し、部屋を探して、予約をリクエストする。予約が完了すると事前カード決済でいったん全額がエアビーに入金される。その後、チェックイン行為が行われると、24時間以内にホストに手数料が振り込まれる仕組みだ。予約したゲストがノーショウしてもお金は振り込まれる」
――エアビーは民泊予約サイトのイメージが強い。民宿、ペンションなどは掲載にそれほど抵抗がないかもしれないが、旅館にとってはどうだろうか。
「旅館が提供する体験とホームシェアが提供する体験は別物と考えている。日本旅館は世界に誇れるおもてなしのショーケースだ。私達のサービスは、ホストとゲスト、個人と個人の交流の場を提供するところから始まった。家族経営の民宿やペンションでの体験は、そもそも非常に親和性が高い。一方で例えば、高級温泉旅館での滞在は外国人にとって非日常の貴重な体験となる。これはホームシェアとは全く別の体験だと思う。同じエリア内で農家民泊に1泊して農業体験をし、旅館に1泊して日本の伝統文化体験をするというふうに共存できると考えている」