まちづくりの成功事例、成功の秘訣 國學院大學観光まちづくり学部・学部長 西村幸夫教授に聞く


西村教授

まちの魅力を”よそ者”視点で発見

 國學院大學に2022年、新しい学部「観光まちづくり学部」が開設された。同学部の学部長、教授で都市計画が専門の西村幸夫氏(工学博士)にまちづくりの成功事例や成功の秘訣を語っていただいた。

 

 ――観光客や定住人口の増加など、地方創生、まちづくりの成功事例と、その成功理由について。

 一つは愛媛県の内子町。伝建地区(伝統的建築物群保存地区)に以前から多くの観光客が訪れていましたが、今はそれだけではなく、周りの商店街や、少し離れた集落でもまちおこしのさまざまな活動が起きたり、移住者が増えたりすることが同時多発的に起きてきました。

 地域外の若い人たちが移住し、”よそ者の目”で地域にアドバイスをしています。行政は廃校になった施設を起業の場として、安価に使えるようにもしています。

 ――誰か仕掛け人がいるのでしょうか。

 町全体が以前から、まちづくりを真剣に考えようというスタンスで取り組んできたようです。大きな企業がなかったことも功を奏しているかもしれません。観光に関連した大きな企業があると、そこだけがもうかるのではないかと住民が協力しない傾向がありますが、ここはそうではありません。町全体が一つになって動いています。

 ――他の事例はいかがですか。

 福井県若狭町は、「鯖(さば)街道」という小浜から京都まで続く街道の、小浜の次の宿場「熊川宿」があるところです。小浜で取れた海産物を琵琶湖まで運び、そこから船で大津まで持っていく、という物流の一つの拠点でしたが、今はそのようなことがなくなり、集落もすっかり寂れてしまいました。

 ただ、この10年の間に、UターンやJターンの人が増えていきました。地元に帰ってきた建築家が地元の古い大きな建物をコワーキングスペースに改修し、京都からスピンアウトした起業家などを呼び込みました。人が集まった結果、カフェなどの新しい店もできてきました。今までは店がつぶれることがあっても新しくできるなどはありませんでした。今まで考えられなかったことが起きています。

 ――”よそ者”を取り込むことが一つのポイントでしょうか。

 都会の人は自然が豊かであることにまず引かれる。加えて、地域のコミュニティがしっかりしていることにも魅力を感じるようです。人と人との濃いつながりがあったり、昔の祭りが残っていたりとか、そういうところに魅力と可能性を感じるのでしょう。

 都会から遠いがゆえに、昔ながらの文化が残されているのかもしれません。都会から車で1時間や2時間圏内ですと、新たな都市開発のターゲットになってしまいますが、距離があればそういうことにはなりません。

 「地域おこし協力隊」の制度を活用することで若者も地方を応援しようというチャレンジが容易にできますよね。さまざまな地域で隊員が活動し、結果が出ているところ、出ていないところ、さまざまですが、チャレンジすること自体が大切だと思います。

 デジタル化が進んでいますので、情報を収集したり発信したりすることが地方からでも都会と遜色なくできるようになりました。大都市ばかりにいいものがあるという以前とは、違う世界になっています。地方にとって、ある意味チャンスが巡ってきたのではないでしょうか。

 ――ニュータウンや商店街など、かつてにぎわいがあった「まち」から人がいなくなりつつあります。こうしたまちを再生する上で、最も重要なポイントは何でしょうか。

 流通の仕組みが変わってきています。オンラインショップでいろいろな商品を見て、買うことができます。今までは実際に商品があるところに行かなければなりませんでしたが、そうではなくなりました。

 今までは商店街が情報の発信基地でしたが、それが大規模ショッピングセンターになり、今はネットにその機能が移っています。

 ただ、ネットでは決して手に入らないものがあります。例えばその場所が持つ力というか、歴史や文化の集積がかもし出す雰囲気のようなもの。これはその場に行かなければ味わえませんよね。その場所でしか買えないもの、味わえないものを、その場所に行って雰囲気とともに味わう。そんなことができれば人も自然と集まってくるのではないでしょうか。

 ニュータウンにしても、そこに住んでいなければ感じられない何かがあると思うんです。昭和の元気が良かった時代の文化がそこに残っているわけで、そんな文化を体験してみたいと思う人もいるのではないでしょうか。

 ――景観における色彩の重要性について、どうお考えですか。

 都市デザインに近い都市計画を専門に行ってきましたが、大学時代の指導教員の先生からよく言われたことは、建物にしても看板にしても、色についてよく考えなさいということです。

 色には青や緑などの寒色系と赤や黄色などの暖色系があります。例えば暖色系で自然が形成されている中で建物に異質な寒色を使う場合は特に注意をしなさいと。要は、バックグランドとしての自然の色を損ねることがないようにしろということですね。人工物が周りの自然とどう調和を取るか。

 自分だけが目立てばいいと、周りの景観を無視して建物を建てる。でも、それをほかの人たちも同じようにしてしまうと、逆に自分の建物が目立たなくなります。自分の感覚をいかに抑えて全体の調和の中で、きらりと光る建物を造れるか。色だけではなく、形も素材も考えていかなければなりません。

 屋根の瓦は地方によって独特のものがあります。寒い所だと瓦が凍結して割れてしまうので釉薬(ゆうやく)を塗る。すると見た目が黒々と光るんですね。一方では素焼きの赤瓦で屋根が統一されている地方もある。瓦の色がその地方の個性を引き立たせています。

 昔は素材が限られており、限られた条件の中で建物を建てていたので、調和が取れた個性のある町並みが形成されたのではないでしょうか。今はいろいろな新しい建材ができて、住宅メーカーの技術も発達していますから、逆にそのような町づくりは難しいかもしれませんね。

 ――条例で建築物の色を制限している自治体もあります。

 景観が大事ということを皆が常識で捉えて自主的に取り組めば一番良いのでしょうが、なかなかそうもいきません。行政がある程度コントロールしたり、方向性を示したりすることも必要だと思います。

 まちの景観がそこに住む人々の文化度を表すとも言います。まちの景観自体が売りになり、観光客を呼んでまちに利益を生むこともあります。皆が同じ方向を向いてまちづくりをするか、ばらばらに動くか。世論をどちらに向かせるかがポイントですね。

 ――先生の著作に「歴史を生かしたまちづくり」があります。都市計画において「地域の歴史」はどのような役割を果たしていますか。

 まちにはそれぞれ物語があります。文化庁が進める「日本遺産」もそうですが、まちが持つ物語を意識すると目の前に広がる景色も違って見えてきます。

 明確な物語がなくても悲観することはありません。物語は普通、ストーリーと言いますが、ほかにナラティブという言葉もあります。ナレーションやナレーターも、このナラティブから派生した言葉です。

 ストーリーが小説などあらかじめ筋が決まっているものを指すのに対して、ナラティブは語り手自身が筋を作るものです。まちを構成する要素一つ一つを誰かが自身の解釈で物語にすれば、まちに新たな魅力が生まれ、人を呼ぶことにもつながるでしょう。

 都市計画は、渋滞や大気汚染や日照権など、さまざまな問題を解決するための手立てを講じることでもあります。例えば道路が渋滞するからバイパスを造る。でも、問題解決のためとはいえ、やみくもにどこにでも造っていいというものでもありません。

 新しいものを造ることで今までの歴史を壊すことにならないか。慎重に見極める必要があります。

 ――単に機能性や利便性を追求するだけではいけないということですか。

 日本は高度成長期、成長を急ぐために過去の歴史を深く考えることをしなかった。低成長時代となった今は、逆にそれを考える時間があるということです。ヨーロッパで古い町並みが今も残っているのは、産業革命を経て、低成長の時代に早く入ったから。日本もそういう時代にようやく入ったのだと思います。

 ――交流人口、定住人口の拡大に取り組む全国の自治体にアドバイス、メッセージをお願いします。

 自分のまちにどんな魅力があるのか。そして何を目指しているのかというメッセージがはっきりしていないと、観光や移住をしようという人たちに選んでもらえない。

 自分のまちにどんな魅力があるのか。住んでいる人には分かりづらいかもしれませんが、ほかと比べると見えてくる。”よそ者”に自分のまちを客観的に見てもらうことも大事だと思います。

 日本によく来るアメリカ人から興味深い話を聞きました。日本に来て、電車に乗ると「日本的だ」と感じるそうです。満員に近い電車で誰かが降りようとすると、周りの人が何となく少し体をずらして道を開ける。これが日本的だというのです。私たち日本人からしたら当たり前だと思って、日本的なんて考えたこともありませんよね。このように外の人から言われないと分からないことがあります。いろいろな人の声に耳を傾ける必要があります。

 全てのまちが何らかの問題を抱えています。でも、問題解決のことばかり考えても、みんな元気になりませんよね。まずは強みを伸ばすことを考えて、元気を出して、その後で弱みを克服することを考える。そんなスタンスでいけばよいのではないでしょうか。

西村教授

【聞き手・森田 淳】

 
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