【withコロナ時代の旅館経営への提言】来た道をぶれずに進む 日本秘湯を守る会会長 栃尾又温泉自在館社長  星 雅彦氏


星氏

 今年当会の宿はコロナ禍と豪雨や地震の自然災害がダブルまたはトリプルパンチとなり、営業的に大変な苦境に立たされている宿が多い。秘湯と呼ばれる立地の宿命で、自然災害を受けやすいのだ。

 年明けからの新型コロナ禍は、世界を新しいフェーズに押し上げているのは確かで、働き方や消費行動の変化、教育の分野などに実感する。特に諸外国に比べての日本のIT分野の遅れぶりが露呈したのは不幸中の幸いなのかもしれない。

 旅館業界の人手不足は長年にわたる課題であるが、当会の宿は不便な立地にあることが多いため、さらに深刻である。これから拍車がかかる人口減少は、働き手の減少も意味するため、秘湯の宿を守り次の世代に残すための手段を会としてもいくつか検討中である。

 20年前は「秘湯は携帯の電波が入らないからゆっくりできていいね」などと、ITから取り残されている場所にいることを喜んでいたお客さまも、数年後には「アンテナの立たない所へは不安で泊まりに行けない」に変わっていった。今は国も、アンテナの立たない場所はないことを前提に、ワーケーションの推進をしている。歩みはゆっくりであったが、われわれ山の宿の営業に今やITは欠かせないものとなっている。

 現在、都市部のシティホテルや地方でも一部の大型旅館などでは、ITデジタル技術の導入により、あらゆる部分で省力化が実現されている。シティホテルでは、チェックイン時もチェックアウト時も一切スタッフと顔を合わさないのが当たり前にすらなりつつある。今後「デジタル庁」の新設などにより、行政をはじめ日本の社会は一段とITの開発と活用、推進に拍車をかけていくことになる。今までの遅れを取り戻さなければならないのである。ITデジタル機器の汎用化が進み、価格は下がってくるだろう。山で温泉を守る宿には、今までは手が出なかった機器やシステムが導入できるかもしれない。通常では宿泊業界として当たり前に取り組んできたことであろうが、やっと今日、働き手不在の秘湯を守る宿が、宿の存続をかけての新たな選択肢を手に入れようとしているのである。

 近い将来、われわれ秘湯の宿に自動チェックインシステムが導入され、予約業務もシステム化により自動化され、最新のIT調理機器が台所に鎮座するなど宿業務のITデジタル機器による省力化が端々に取り入れられていくかもしれない。宿の存続をかけて、運営の形態は変わる部分があるのは当然のことだが、今こそ、秘湯の宿として「変えてはいけないもの」を大切にすることに、心を寄せていくことが望まれる。

 当会は、お互いの存続を助け合う「共生の理念」の下に、それぞれの立地ある源泉と温泉文化を守り、限界集落の地域文化を守り、その次世代への継承者を育成することを目的として、46年間歩んできた。今まで来た道をぶれずに進んでいくことに変わることはない。


星氏

 
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