【withコロナ時代の旅館経営への提言】最重要は「スピード感」 リクルートライフスタイル じゃらんリサーチセンター 主任研究員 北嶋緒里恵氏


北嶋氏

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で痛感したのは、今はまさに予測不能な時代であること。ほんの数カ月でも世界は変わる。もしこの先を予測するとしたら、「100%予測はつかない」と考え「何が起こるか分からないと予測する」ことが正しいかもしれない。特に観光・宿泊業は、豪雨や台風等の自然災害も含め、常に外的要因による変化と向き合い続けるビジネス。過去のデータや正攻法を完璧にプログラミングした事業計画だけでは立ち行かないことも多い。常に、目の前のチャンスや危機に対して、迅速に判断し、柔軟に創造することが求められる。

 現時点では国・自治体のクーポン施策、雇用調整助成金等の公的支援も始まり、少し不安感が払拭(ふっしょく)された。ただ、この支援が終わり自力経営を求められたとき、大きな差が生まれるのでは…と危機感を感じている経営層も多い。この予測不能な時代において最重要なのは「スピード感」だ。戦略立案、改善、新たな打ち手の実践、これらを迅速に行うこと。そのためには経営層+現場推進リーダー層+メンバー層の強固な関係性が担保された組織力、人材の基盤にかかっている。逆に、これさえあれば、どんな不測の事態も対応できる。今回、緊急事態宣言で休業を余儀なくされた各地の宿でも、急きょ事業計画の変更や、従業員からのボトムアップによるアイデアを迅速に計画化し、組織単位で理解→共感→共有→実践まで行った宿の事例はいくつも見られた。例えば福島県「東山温泉 くつろぎ宿 新滝」では従業員の皆さんが、休館時期を利用し半露天風呂を自ら造成したという。組織の関係性の質や人材育成の仕上がりが、この先の競争期、各宿の真価となるだろう。

 先日、当センター独自調査「じゃらん宿泊旅行調査」にて10年間の旅館利用状況の変化を改めて分析してみた(2008~2018年度/観光目的に特化した国内宿泊旅行データが対象)。旅館利用者の市場規模が3割程度縮小、主力のシニア層利用の減少などマイナスな一面もあったが、この中で旅館利用者にとっての「旅館の価値とは何か」を探ると、ホテル系利用者とは明らかに差が見られた項目があった。旅館利用者は「宿(旅館)で過ごすこと自体が旅の目的」であり、旅後の満足度で「地元の人のホスピタリティ」が他宿種より高い傾向だった。旅館の人材は、カスタマーにとっても不変の価値である。組織や人材を、自宿の提供価値のためにもぜひ磨き込んでほしい。今回の危機は変革の機会と捉え、未来の宿のために組織と人材育成の強化を推進することをおすすめしたい。


北嶋氏

 
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